欧風カレー番長メンバー・佐藤幸二のこと

 僕・水野仁輔が佐藤幸二と出会ったのは、4年ほど前である。
 おそらく彼は、そのとき僕に会ったことは覚えていないと思う。あるヨガスクールの周年イベントでカレーを作ったときのこと。スクールのオーナーから佐藤君を紹介してもらった。オーナーが佐藤君に向かって、「カリ~番長の水野君」と紹介。
「あ、どうも」と僕。
「あ、どうも」と佐藤君。
 ここまではいい。オーナーが続ける。
「佐藤君は、まもなくポルトガル料理店を出す予定なんだ」
「へえ! そうなんですか!」
「ランチにはカレーを出すかもしれないから、一度味見してあげてよ」
「いやいや、そんな、めっそうもない」
 そして沈黙。ここで会話は終わった。
 僕が最も苦手とする展開だった。パーティなどの人の集まる場所で、自分を紹介してもらったり誰かを紹介してもらうのは嬉しいことだけれど、会って間もないシェフの前で、「カレー味見してやってよ」となるのは、この上なく居心地が悪いのだ。別にオーナーが悪いわけでも佐藤君が悪いわけでもない。僕は、「まいったな……」と黙るしかないし、おそらく佐藤君も「なんだ、こいつ?」くらいにしか思わなかっただろう。
 まもなく、ポルトガル料理店「クリスチアノ」は開店した。しかも、僕の住む町に。純粋に行ってみたい、食べてみたい、という気持ちの一方で、初めて会ったときに僕が一方的に感じた微妙な空気が邪魔をして、なかなか店に足が向かなかった。そのうち、「クリスチアノ」は地元でも“全く予約が取れない店”と評判になり、ますます僕は腰が引けた。件のオーナーとはその後も親しくさせていただいていて、久しぶりに飲みに行こう、という話になったとき、僕は、「クリスチアノに行きたい」とおねだりした。開店してから実に3年以上の月日を経て、佐藤君に再会したわけである(彼は初めましてだと思ったに違いない)。
 たまにお店に顔を出すようになったある日、佐藤君から「ちょっと相談したいことがあるんですよ」と声をかけられた。僕の方も「僕もちょっと相談したいことがあるんですよね」と言って、会うことにした。地元のタイ料理店で。彼からの相談事がなんだったのかはまだ内緒にしておこう。
僕からの相談事はもちろんこれである。
「欧風カレー番長っていう集団を立ち上げたいんだけど、一緒にやりませんか?」
 地元に頼もしい仲間ができた。
 
 
◆佐藤幸二(さとうこうじ)のプロフィール
1974年、埼玉県生まれ。調理師専門学校卒業後、都内のホテルで調理師として働きはじめ、数年後にイタリアに渡る。その後イギリス、タイを中心に働いて7年後に帰国。数件のレストランで料理人をしながら2010年にポルトガル料理店「クリスチアノ」を開業。現在はお菓子屋、魚料理屋、タイ料理屋なども経営しながら次は何をしようか考え中。アフリカ料理屋、洋食、イタリア料理、フランス料理、タイ料理、カレー屋の経験あり。
 
 
prof-sato

カテゴリー: ★欧風カレー番長について |

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。


*

CAPTCHA


▲UP