カレーになりたい 181210

「今日は3か月分しゃべりました」
下北沢「moona」の諏訪内君がそう言った。
ラッサムの学校という企画で、料理デモンストレーションをしてもらった。意外なことに料理教室は生まれて初めてだったそうで、カセットコンロと慣れない鍋を使って8人分とか16人分とかいう中途半端な量で、クラブラッサムとチェティナードチキンを作ってもらう。
「うわー、しゃべりながら作るの難しいっすね」
とかも言っていた。僕がとなりで突っ込みまくるから、余計にテンポが狂うのだろう。ま、僕もそれが役割だから頑張ってもらうしかない。途中、生徒さんから、煮込みの手法によるメリハリの利かせ方について、「より具体的に説明してほしい」とリクエストが入る。
「ええと、ええと、なんて言えばいいんだろうな……」
2時間のデモで諏訪内君が一番困っている瞬間があそこだった。僕も隣りにいて、「そうなんだよね、説明するの、難しいよね」と思った。僕と諏訪内君の間では言葉を交わさなくても通じていることだけれど、どう説明していいかは本当に難しい。そして、もっといえば、その部分が、2時間の中で最も大事な部分でもあるのだ。
たいがいのことは僕が“通訳”して生徒さんに伝わりやすく追加の質問をしたり補足説明をしたりするのだけれど、メリハリに関しては、僕もフォローを止めてしまった。僕は諏訪内君よりはるかにしゃべるタイプだし、そういうことを解説することが本業のひとつでもあるから、彼の頭の中でモヤモヤしていることを少しはひも解くことができる。でも、それにしても、伝わるイメージがもちにくい。説明は長くなるし、かなりいろんなことがわかっていたり経験できていたりしないと届かないという気もする。それで、諦めてしまった。
あの場で僕と諏訪内くんが「こうだよね」「そうそう、それなんだよ」とか言い合っていても、生徒さんたちはポカンとするばかりだろう。
ただ、あの説明しがたい大切な部分を言語化することは、僕がやらなければならないことだと思った。どう説明したらいいのか、どう表現したら伝わるのか、もっと考えなくてはならない。解説できたところでそのテクニックまでが備わるわけではないけれど、「こういうことを考えて技術的にこういうことをしているんだな」というイメージが伝わるだけでも大きな進歩だと思う。
言語化、言語化、言語化。
「わかるわ~、その感じ!」と、実力のあるシェフたちの間で交わされているやりとりを、一般の人の間でも交わされる日がくるまで、表現の開発はし続けたいと思う。
「今日は、2年分しゃべりました」
打ち上げの席で解散間際の深夜2時に諏訪内君がそう言った。あれ? 料理教室が終わった直後は、3か月分だったはずなのに。打ち上げで1年9か月分しゃべったことになる。まあ、かなり酔っぱらってたからなぁ。よくしゃべったよなぁ。

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