カレーになりたい 181120

考えてみれば、著者にとって「書籍を作る」というのはとっても孤独な作業だ。実作業は編集者との二人三脚だし、デザイナーさんや出版社の営業さんや印刷会社の担当者や取次の方や書店員さんや色んな方々と作り上げていく側面も持っているし、本によってはそこにカメラマンやスタイリストが入ってきたりして、それぞれのプロが知見を結集させてひとつの本に挑むのが書籍づくりだと思っていた。僕はそれを手に取って実感できることが好きで書籍をせっせと作ってきた。たしかにそういう部分も強いとは思うけれど、ふと、ある書籍を出版するまでの自分自身の仕事を振り返ってみると、パソコンと向き合って原稿を書き、出力した紙に赤ペンをぎっしり入れ、また書き直しを校了直前まで延々とやり続ける行為は、恐ろしく孤独で変態的なものなのかもしれないと思ったのだ。
いま、来年の夏前に出版する書籍の話が2冊、進んでいる。本当に実現するかどうかはわからないし、もしかしたら、まだこれから先、別の新刊の話もいただくかもしれない。今年は1冊入魂で新刊に挑んだから、そう考えるとちょっと前のように複数冊を同時進行させて目が回る日々がやってくるのかと思って、戦々恐々とした。そこで思ったのだ。もっとたくさんの人で1冊の本を作ることはできないだろうか。もちろん、僕の本だから、原稿は100%僕が書く。
でも、本が一冊できるまでの間にするべきことは原稿執筆以外にも山ほどあって、それらをたくさんの人でよってたかってやるのである。著者は水野仁輔となるけれど、印税や製作費などの収入をオープンにして作ったみんなでシェアすればいい。盛大な出版記念パーティでもやって、チャラにするくらいでもいいじゃないか。もう僕はいやというほどカレーの本を出してきたのだ。昔も今もそれで生計を立てようと思ったことは一度もない。だから、どうせなら新しい本の作り方に挑戦してみたいと思った。
そんなことを成都のスターバックスでたいしておいしくないカプチーノをすすっているときに思いついた。それで、Facebookにあるカレーの学校卒業生だけが閲覧できるグループページに投稿してみた。
「一緒にカレーの本を作りませんか?」
具体的に進んでいる書籍の企画概要をざっと伝え、興味のある人を募ってみたのだ。すると、24時間以内に100人もの協力者が手を挙げてくれた。15人くらいでやることを想定していたから驚いた。みんなに出来上がった本を1冊ずつ買って、全員で打ち上げしたら初版の印税は底をつきそうだ……。
さて、楽しくなってきたぞ。手を挙げてくれた人はそれぞれ別の目的を持っているだろう。書籍というメディアに強い興味を持っている人、自分でいつか出したいと思っている人、どんな世界なのかを垣間見てみたい人、なんとなく手を挙げておくか、の人などなど。書籍化が完全に確定しているわけではないのに「英語版を作るときは私がやります!」と言ってくれる頼もしい人が二人もいたりして。いずれにしても、出版社から依頼を受けて50冊ものカレー本を作ってきた人間は他にいないのだから、僕にしか伝えられない僕ならではの本づくり魂をお届けすることはできそうだ。
それぞれが別々の目的をもってひとつの本づくりに向き合い、自由にカレー本という場を利用して楽しんでくれたらいいなと思う。そんなことを何度も何度も繰り返すつもりはないけれど、せっかくだから僕も楽しみたいと思う。
さ、やるかな。
 

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