丸刈りにした。
バリカン使って自分で。なんとなく、もうそうしようと思ったのだ(ということにしておこう)。このところ、髪の毛が長くなってきて、うるさいなぁ、切りたいなぁ、と思っていた。でも、なかなか美容院へ行けなかったのは、忙しくて時間がなかったからではない。予約をしなければいけないからだ。
僕は本当に予約するという行為が嫌いで、そんなの電話一本ですむ話なのだけれど、それが嫌いだから仕方がない。予約しなきゃいけないのか~、面倒だな~、いやだな~。そう思っているうちにいつまでたっても髪を切れないまま時間が経っていた。
相手があるイベントや打合せはさすがに予定に従って動くのだけれど、髪の毛を切りたいとかお腹が空いたとか、自分だけの都合で生まれる欲求に対して何かの予約という手続きを取らないといけないという行為の意味がわからない。
そういう意味では、予約が嫌いなのはレストランなんかもそうだ。予約が取れないレストランなんて、問題外で、予約はとれるけれどもとらないと行くことができないレストランには、基本的に行かないと決めている。だから必然的に“話題の店”には興味を持たなくなる。自宅付近でひとりで食事に行く店は、数軒きまっているのだけれど、どの店もふらっと行けばカウンター席を空けてくれるか、たいてい一席くらいは空いている店である。お腹が空いたなぁ、なにか食べたいなぁ、と思ったときに悩まずに足が向く店が何軒かあればそれでいい。
割と最近、注目を集めているエリアだから、それこそ話題の店やおしゃれな店が増えている。遠くから目指してくる人もたくさんいるようだ。でも、僕は、ふと思い立って、ふらっと立ち寄ったら入れる店がいい。
昼になんとなくフレンチを食べたくなって地元のフランス料理店へ行った。ランチなら、ふらっと行けばカウンターに座れることはわかっているから、開店直後に入って食事をし、シェフとたくさんおしゃべりして、赤ら顔で店を出た。その後も少し時間があったから、美容院へ行ってみようかな、と思って自転車を走らせた。その美容院も地元にあって、いつも予約でいっぱいだからふらっと言ったところで髪を切れるわけではないけれど、ふらっと寄れば予約が取れる。電話をかけて予約をするのは、本当に本当に嫌いなのだけれど、直接店に行って空いている日を聞くのは百歩譲って大丈夫なのだ。理由はない。とにかく、そう自分が感じるのだから仕方がない。
美容院に向かって自転車をこいでいたが、やっぱり面倒だな、という気持ちが強まってきた。結局、美容院には寄らず、ラボで仕事をして、帰宅してからバリカンで自分で切ることにした。数年前までは自分でそれなりにかっこうがつくように切っていた。が、それすらも面倒になり、いっそのこと、丸刈りにすればいいか、と思ったのだ。
さっぱりした。
こういう話はまともに人に話すと必ずきょとんとされる。怪訝な顔をされる。「わかるわ~!」なんて言われたことはない。電話で予約するのが面倒だから丸刈りにするとか、そっちのほうが面倒でしょ! と思うのが普通なんだろう。だって、その美容院は、30分かからず上手に切ってくれることで有名なところなんだし。でも、僕は、電話をして予約をして髪を切るために数日後、1週間後のいついつに、なんてことをするくらいなら、自分が切りたいと思ったときにパッと切れることのほうがいい。それがどれだけ面倒で時間がかかろうと、切った髪を自分で掃除しなくてはならなくても、そっちのほうが僕自身が心地よいのだ。
そして、このどうでもいいような話は僕にとって、実はすごくすごく重要で、わかりやすくいえば、この自分の些細な好き嫌いを尊重して生活していることで、僕は全くストレスなく過ごすことができるのだ。そのストレスを抱えなくていい分、心のゆとりができた分、僕はカレーのことを考え、カレーのことに打ち込むことができる。そう僕は思っている。僕が予約してレストランへ足を運び、予約して髪の毛を切らなきゃいけない生活になったら、カレーのことを今のようには考えられなくなる。何言ってんだろうね。バカじゃないか、と思われるな、これ……。
そして、僕は頭をバリカンで刈っている間も考えるのだ。ほとんどの人が髪形を気にして美容院に行って誰かにステキに切ってもらっている世の中で、髪形にそれほど興味のない自分が自分でバリカンを使って、誰でもやれるような丸刈りに切るという行為は、たとえばカレーの世界で言うならどういうことなんだろうか? とか、ね。丸刈りにしてみると、今までよりも帽子に興味が出てくるんだな、みたいなことを感じたりすると、そうか、それはスパイスでいうならどんなことなんだろうか? とか、ね。
他人にとってどうでもいいようなことでも僕にとってとにかく大事なことというのはたくさんある。それは説明すればするほど変人扱いされるから、できるだけ自分の中に収めるしかない。きっと、しばらくの間、「どうしたんですか?」とか「なぜ丸刈りに?」とか聞かれるんだろう。説明しようがないよな。「まあ、なんとなく」くらいに答えるんだろう。誰かに大きな迷惑をかける行為でなければ、これからも僕はこの偏屈な好き嫌いに忠実に従っていていきたいと思う。
ああ、すっきりした。

