カレーになりたい 180808

台風直撃の夜に開催したイベント「アチャールナイト」に150人近くの人たちが集まってくれた。運よく天候もそれほど荒れず、楽しんでもらえたんじゃないか、と思う。
ああいうイベントのとき、いつも僕は自分がどこにいて何をするべきか悩む。アチャール(インドの漬物)やカレーを楽しみたい、という人がもちろん多いのだろうけれど、スパイス番長4人と「ハバチャル」の飯塚君という5人がホストとなっているわけだから、5人のうちの誰かと直接会って話をしたい、という人も多いはずだ。
今回はお手伝いしてくれるスタッフも十分いたから、僕は、料理の盛り合わせを提供するテーブルで案内役をすることにした。そうすれば、参加者全員ともれなく顔を合わせることはできる。
「別に水野には用はないんだよな、シャンカールさん、バラッツさんと話したいのだから」という人もたくさんいたんだろうけれど、それなら僕が間にはいってつなげば、直接声をかけるよりはスムーズだろうし。
中には富山、静岡、愛知、福岡などなど、遠方からこのイベントのために上京してきてくれた人も多く、そんなことを聞いてしまうと、できるだけ僕が話せること、伝えられること、返してあげられることをしてあげたいと思う。飛行機や新幹線に乗って往復何時間もかけて台風予報の中に来てくれた人の思いに応えるなら、10分15分しゃべったくらいではまるで足りないのだけれど。とにかく、いつでも話せそうな人からは少し距離を置き、できるだけたくさんの人に声をかけた。かけられもした。他のメンバーの声を直接聞きたくても話す機会が得られない人もいるだろうから、とイベントの中間でマイクを使ってメンバーに話をしてもらう時間も作った。
当日現場で考えられること、自分ができることはあれこれとしたつもりだけれど、終わってみると、「もっと何かできたんじゃないか」と反省してしまう。まあ、ともかく、僕たちメンバーは楽しめた。
参加者の中に「黒船カレー」の本がとても面白かった、と興奮して伝えてくれた人がいて、嬉しかった。
「結末はああするしかないんでしょうね、それも含めて本当にいい本でした」
と話してくれたので、僕もうれしくなって、少し話し込んでしまった。
カレールーツをめぐってイギリスを中心にあちこちを訪ね歩き、見つけたいものが見つからないまま、悶々とし、最終的にアイルランドで発見したと思ったら、中国産のカレーペーストで作られていた。という結末。それは、その通りに僕が体験したことを書いた結末だ。
「最後にどんでん返し」的な感想が当時よくあったけれど、落ちをつけるつもりもどんでん返しするつもりもない。そのままを書いただけで、もっといえば、その後、カレーのルーツを探る旅は今も続いているのだ。僕は誰に頼まれたわけでもなく、あの本の後もミャンマーや香港、マカオやポルトガルに足を運んでいるのは、旅が続いているからだ。それをどこかで発表する予定もあてもない。そのことを知ってか知らずかわからないけれど、そんな僕のスタンスを理解してくれているその参加者の言葉がうれしかった。
「答えが知りたい」と「正解にたどり着きたい」と考える人は多いような気がする。気持ちはわかるけれど、僕にはそういう気持ちはない。カレーの世界で疑問や好奇心を持って探求することが僕のライフワークだけれど、答えを見つけたいとか正解にたどり着きたいと思ったことはない。自分なりの解釈を生み出したいとは思うけれど、それが不正解であってもいい。そもそも疑問というものは、それなりの知識や経験がないと生み出すことすら難しいし、好奇心はいつまでも失いたくないし、探求するには自ら動く行動力がなければならない。そのプロセスは刺激的で楽しくやめられない。この快感はやめられない。答えを知っている人はほかにいるかもしれないし、正解にたどり着くのはきっと僕じゃない。僕じゃなくていい。
 
答えを見つけることよりも疑問を見つけることのほうが実は難しいと僕は思っている。
そして、その疑問に対して好奇心を失わずにい続けることはもっと難しいと思う。
(僕の崇拝する棋士の羽生善治さんは、それができる人こそがプロフェッショナルだと言っていた)
好奇心があっても行動にうつさなかったらつまらない、とも思っている。
 
アチャールナイトのトークタイムに、ナイル善己くんは、「アチャールっていったいなんなんですかね?」とお客さんたちに向かってマイクを向けた。僕はすかさず突っ込みを入れた。飯塚君は、「来年、スパイス番長と一緒にアチャールを探る旅に出ます。でもそれでアチャールとは何かがわかるとは思わない」とマイクを通して本音を吐露した。僕は激しく同感した。じゃあ、なんで大のオトナが5人も忙しい中、スケジュールを調整してインドへ行くのだろうか。アチャールを探求しにいく。でも、アチャールが何かを得られることができないということは事前にわかっているのだ。
なぜインドへ行くのかは、僕たちの好奇心が満たされるからだ。僕たちは正解や答えは最初から求めていないからだ。アチャールをめぐる彼らメンバーの発言を聞いていて、改めて、「だから僕はこのメンバーでいつもインドへ行くんだな」と思った。
アチャールって面白いじゃん。アチャールで何をしようかね。インド料理の世界でそこそこの知識や経験を積んだ5人が、正解を求めずに探求を楽しむ。「不思議だね」、「面白いね」とは言うけれど、「こうである」、「わかった」とは誰も言わない。答えや正解や結論を求めないという面白さを僕はこれからも追求していきたいと改めて思った夜だった。
さて、次はアチャールで何をするかな。来年のインドまでにまだ時間がある。メンバーに相談しよう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。


*

CAPTCHA


▲UP