カレーになりたい 180703

「水野さんの事務所? アトリエ? にお邪魔していいですか?」
とある雑誌の編集長から連絡が来た。
「もちろん、どうぞ」
と返事はしつつ、アトリエってなんだかかっちょいいなぁ、と思ったのである。僕はあの場所を今のところ、ラボと呼んでいる。でも、ラボって言うのは、ダサいからちょっといやなんだよな、とも思っている。
機能でいえば、もの置き場、兼、事務所。でも事務所っていうのは、なんだかビジネスする場所って感じがしてしっくりこない。やっていることは、ラボに近いけれど、なんとなく……。アトリエか~、アトリエ、ありだけどな。
ただ、アトリエですって言ってあの場所に来たら、みんながガッカリするだろうな。
「え、こんなところで!?」
何十年前に立ったかわからない古いビルの、学生が一人暮らしをするような狭い部屋。外観も中もまったく素朴そのもの。これまで打合せなどで訪問した人たちが、まあまあな確率でとなりのちょっとおしゃれな外観のビルと間違える。そのビルの403号室の方は、何度も見知らぬ人にインターフォンを押されて、迷惑してるだろう(笑)。
そのくらい、いまの僕のあの場所は、「水野さんの事務所? ラボ? がこんなところなはずがない」みたいに思われるような、何の変哲もない場所なのだ。実際に何度かそう言われたことがある(水野さんのイメージどう持ってるの? というのも疑問だけれど)。
まあ、そういう意味では、呼称がラボであれ事務所であれ、訪れた人をそこそこ動揺させるには十分な場所なのだろう。
「え、こんなところで!?」
僕は日常を過ごす空間にあまり興味がない。
キッチンは火がつけばいいし(IHならIHでも構わないし)、車や自転車は走ればいいし、ラボはモノが置けて作業ができればいい。素敵である必要はない。住めば都って言うしね。どんな空間に身を置くか、よりもそこで何をしてどんなアウトプットをするかに興味がある。
だから、このラボを借りると決めたとき、内装会社を一つ決めて、椅子も机も棚もすべてお任せすることにした。僕の希望はほぼない。リクエストするのは棚の高さやテーブルのサイズくらいか。結果的にラボは何の変哲もない狭い空間にスパイスや調理器具、書籍などがぎっしり置かれてまるで素敵ではない空間に仕上がっている。けれど、居心地は抜群によい。こうじゃなくても居心地はよいのだろう。
ここをラボと呼び始めるときに、ラボ以外にもうひとつ呼称があった。「基地」である。やっぱりラボよりも基地のほうがいいかもしれない、と思っている。
基地には今、毎週火曜の夜に人が集まってきて、イベントやプロジェクトの作戦会議をしたり、カレーの詩作をしたりしてワイワイやっている。玉ねぎの加熱方法の違いによってカレーの味にどんな差が出るのかを研究するグループがやってきて、みんなでカレーを作り、議論した。
「均質化」というキーワードが出て、これがカレーの味わいにどう影響するかについて話し合う。集まるメンバーはそのときどきで違う。誰が来ても、この狭く雑然とした空間で苦労をかけるなとは思うけれど、まあ、これが自分のスタイルだから仕方がない。
「え、こんなところで!?」みたいな場所から、「おおお!」みたいなアウトプットがたくさん生まれることが、楽しい。
やっぱりラボやめて、基地にしようかな。
 

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