カレーになりたい 180624

カレーのことしかやりません。
そうやって決めてこれまでずっとやってきた。
カレー以外の料理も作ってください、と言われても、
カレーのことしかやりません。
そう言ってきた。
オススメの映画を、休日の過ごし方を、コーヒーライフを、キャンプ道具を、教えてください、と言われても、
カレーと関係ないからやりません。
そう断ってきた。
僕は、タレントでもなく、作家でもなく、文化人でもなく、カレーの人なのだから。
カレーのことしかやらないのだ。
そういうことにしてきた。
自分にとってはとても楽なことだった。
リスボンで行ってみたいと思っていた「缶詰BAR」に行った。
イワシをはじめ、各種、魚介類の缶詰がショーウィンドウにずらりと並ぶ店内で、
微発砲ワインを飲み、缶詰をつまんだ。
店のスタッフは、客が注文すると、ショーウィンドーを開けて缶詰を取り出し、
皿に盛りつけてテーブルへ運ぶ。それだけだ。
メニューには缶詰のリストが小さな文字でずらり。
ここには、缶詰と酒しかない。
でも、客がごった返してみんな楽しそうにやっている。
誰も、「そんなことなら缶詰買って家で酒呑めばいいよ」とは言わないのだろう。
だって、ここがリスボンで最も缶詰が集まっている場所だから。
手当たり次第に好きな缶詰をつまんで飲めるのだから。
缶詰のレシピ本まで出している。
缶詰のことしかやりません。
店がそう言っている。
僕はメニューをしつこくチェックし、カレー風味のサーディーンを見つけた。
注文して食べ、ショーウィンドーに行って、お土産用にその缶詰を買う。
パッケージには、「Caril」と書いてある。ポルトガル語で「CURRY」のことだ。
缶詰のことしかやらないBARに、カレーのことしかやらない男がやってきて、
缶詰のことしかやらないBARで、カレーのことしかやらない男がカレーサーディーンを食べた。
缶詰のことしかやらないBARと、カレーのことしかやらない男がリスボンで出会った。
いい夜になった。

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