カレーになりたい 180614

かなり久しぶりにラーメン王(元ラーメン王、かな)の石神くんに会った。
彼とはもう15年以上の付き合いだけれど、3年に1度くらいしか会わないし、
お互いそんなに近況をチェックしているわけじゃないから、会うと、「最近、どお?」的な話になる。
意外だったのは、ここ数年、彼はラーメン活動を全くしていないとのことだった。
テレビをはじめとするメディアも過去にお世話になったごく一部の人からの依頼だけ、
断り切れずに受けることはあるものの、基本的には表舞台から完全に退いた状態だという。
ただ、麺から引退したわけではなく、10年ちょっと前に始めた麺関連の事業に本腰を入れているようだ。
僕はテレビを見ないから、彼が最近、出ていないことすら知らなかったけれど、本当に意外だった。
色々と理由はあるようだけれど、町中で「ラーメンの石神だ」と言われるのは嫌だ、という。
僕も全く同じ気持ちだ。カレー店で顔が割れるのは仕方がないけれど、
カレーと関係ない場所で「カレーの水野だ」と見つけられるのは本当に勘弁してもらいたい。
ただ、僕は石神くんとは違って、その気持ちが昔から強いから、最も影響力のあるテレビは出ない、
という方針を昔から(できる限り・汗)貫いているので、なんとか自分なりに自然体でカレー活動が
できる環境は整えている
つもりだけれど、彼の場合は、これまでさんざんテレビに出まくってきたのだから、いまさら厳しいだろう。
ここ最近は、ネットで心無いことを書かれる機会も増えているから、それに対する拒否感もかなりある様子だった。
特に自分が書かれるのはいいけれど、それによって事業に迷惑をかけることになるのは避けたいそうで、
そんな話を聞きながら「石神くんも大人になったなぁ」なんて感想を持った(僕より少し年上なんだけど)。
石神君のように表舞台から完全に姿を消そうというほど明確な方針はないけれど、
僕もここ数年は、表舞台に立つ機会をできるだけセーブしてきているから、これを続けていくと、
きっと、近いうちに彼と同じように姿を消す日も訪れるかもしれない。
ただ、彼とは違って僕は事業に没頭するようなことはないから、カレーにまつわるあれやこれやを
これまで通りに、いや、これまで以上にやりまくって過ごしていくのだろう。
なんか、石神君に対して今までにはなかった親近感が沸いてきた。
思えば彼と僕は、「ラーメンの石神」と「カレーの水野」で同世代。同年代に出始めてそれぞれの分野で
活動をしてきたから、その点でいえば、近い存在にあった。お互いにそう認識もしていたと思う。
ただ、僕が彼と決定的に違っていたのは、スタンスだ。テレビに出まくってメジャーになっていく彼と、
テレビが苦手で派手にメディアに出ることのない(雑誌は出まくったが)僕。
10年ほど前にとあるトークイベントで一緒に登壇したときのことをよく覚えている。
その会場には200人から300人ほどの人がいて、僕らはステージの袖で呼びこまれるのを待っていた。
いつも通り、僕はバカ話をしていると、緊張した面持ちの石神君が不思議そうに僕に話しかけた。
「よくそんなに普通にしてられますね。僕なんかこういうの慣れていないから緊張しちゃって」
「ほんとに!? だってあれだけテレビに出まくってるのに今さら緊張なんかします?」
「テレビカメラは全然なんともないんですよ。向こうにカメラマンとディレクターくらいしかいないから」
この会話をしたとき、緊張している彼を見たとき、本当にタイプが違うんだなと思った。
僕は、目の前に100人いても1000人いても、ステージに出て行ってしゃべるのはまるで緊張しない。
むしろワクワクする。でもテレビカメラはダメだ。たとえそこにカメラマンとディレクターしかいなくても、
全く調子が出ない。普段通りにしゃべれる気がしない。見えない視聴者がその先にいることがダメだし、
番組の作為に沿って演じなければいけないことにもプレッシャーを感じてしまうし、とにかくうまくいかない。
なんか、あのときは、本当に別の種類の人間を見るような目で彼のことを見たのを思い出す。
それが、いまは、とっても身近に感じる。彼も変わったし、僕も変わったのだろう。
そして、当たり前のことだけれど、同じ年月だけ年を取り、経験を積んだのだな、と思った。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。


*

CAPTCHA


▲UP