カレーになりたい 180511

屋根の上に鳩がいた。
瓦屋根の一番てっぺんのとんがったライン上にポツンと、鳩。
まあ、そりゃ、いることもあるだろうね、とそれだけなら何ともない光景なのだけれど。
「あの鳩、瓦なんです」
そう言われて、おおお! となったのだ。
青空と強い紫外線を背景に黒光りした瓦鳩は、本当に鳩のように見える。
素敵。
愛知県高浜市にあるかわら美術館で、いま、「高浜スパイス研究所」という展示をしていて、監修させてもらっている。金沢でやった「水野仁輔 金沢スパイス研究所」の姉妹版ともいえる企画で、参加者が自由に展示しているスパイスを使ってブレンドを楽しめるようになっている。
会期中にどこかで顔だけでも出したいと思い、訪れた。担当者に駅まで迎えに来てもらい、美術館に向かって歩きながら瓦について話を聞く。そして、ある民家の屋根に瓦鳩がいるのを教えてもらったのだ。
今もあの鳩の残像が残っている。あの辺りは土がよく、いい瓦ができることから全国一の生産量を誇るそうだ。鳩以外にもいろいろと遊び心のある瓦があって、屋根にくっついているのを見つけることができるという。
僕が最近、ミャンマーに行ったという話をすると、こう聞かれた。
「ミャンマーの瓦はどうでしたか?」
いや、ミャンマーで建物の屋根を眺め、瓦をチェックするという発想はまるでなかったからミャンマーの瓦について聞かれても、何の返答もできない。
それで思い出したが、ついこの間、都内の熱帯魚屋さんに行ったとき、ベタを見ていたら、タイ産だという。
「タイなんですか? 僕、バンコクへは何度も行ったことありますけど、どういうところに売ってるんですか?」
「屋台とかでも普通に見られますよ」
タイの屋台も屋台街もまあまあ訪れている。でも、ベタを見た記憶はない。瓦にしろ、熱帯魚にしろ、興味を持つまではまるで目に入らないのだな、と改めて思った。逆に言えば、瓦に興味を持ち、熱帯魚に興味を持つと旅の楽しみも増えるわけだ。そうか、この喜びや楽しみをとことん突き詰めていった先に存在しているのが、きっとタモリさんなんだろうな。
高浜スパイス研究所の担当者は、「スパイスの展示をしよう」と決めてから、40冊ほどのスパイス本を読み漁ったという。その中で、僕の「いちばんやさしいスパイスの教科書」に出会い、「これだ!」となって声をかけてくれたそうだ。うれしい話じゃないか。
あの展示でスパイスと出会った人が、どこか別の場所へ行ってもどこかでスパイスアンテナを立てて過ごせるようになったらいいのになと思う。僕にとっての瓦や熱帯魚のように。

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