カレーになりたい 180101

年末年始の実家では、暖炉の火を見るのが僕の役割だ。
何もない状態から薪を積み重ねて途中に段ボールの切れ端を入れたり、新聞を丸めて差し込んだりしながら組み立てをする。マッチに火をつけ、段ボールの端に点火したら、そのまま扉を閉める。閉めると言っても密閉はさせない。2センチほど隙間を作ると空気が流れ、ガラス戸の中で薪たちがボーボーと音を立てて燃えていく。ある程度、大きな薪に火がうつりはじめたところで扉を開ける。あとは、扉の開閉と新しい薪を選んで追加する作業を何時間も繰り返すのだ。
もう何年もこの作業を担当しているから、そこそこ上達している。火を見ているのは楽しいし、コントロールできるようになると嬉しく、飽きない。
それだけを淡々とこなしていればいいのだけれど、職業病というのか、火と向き合いながらいろんなことを考え始める。この自分が習得した薪と火の関係をわかりやすくルール化できないものだろうか、と。
具体的に言えば、スタート時の組み立ては、どのサイズの薪と木の枝をどういう角度で組み合わせていけばいいのか。段ボールはどのサイズにちぎり、新聞紙はどの程度の強度でまるめ、どの角度からさせばいいのか。
これがルール化されたら、毎年、暖炉の火を担当している僕じゃなくても、誰がやっても家の中を温められるようになる。カレーでやっていることがそれだ。自分が習得した技術の感覚的なものをできるだけ再現性を高めた状態でアウトプットする。他の人も同じような味のカレーが作れるように。
しかも、それをあるレシピという形で表現するだけでは満足できない。薪の種類や暖炉の形、その家の部屋の中の温度や湿度が違っていても、どんな環境にも適用できる共通性を見つけだし、それをルール化して示したいのだ。
燃えた薪の形が変わって崩れ落ちたらどうすればいいのか。崩れていないのに炎が小さくなってきたら、どこを触ればいいのか。思いのほか火が強くなり、バチバチと火の粉が暖炉の外に飛び跳ねたりし始めたらどうすればいいのか。「こんなときどうする」シリーズもあるといいかもしれない。
あ、そういえば、カレーのレシピもそうだ。
カレーのレシピには、たいていの場合、正解しか書いていない。正解と言うか、お手本というか。「世界一やさしいスパイスカレー教室」という本では、失敗例もいくつか写真で示したが、「このカレーを作っていて、もし、こんな風になってしまったら、どうしたらいいのか?」みたいなプロセスがたくさん散りばめられているレシピ本があってもいいのかもしれない。
ちょっと前に「キミならどうする? レシピ」を思いついたけれど、「こんなときどうする? レシピ」もありかもなぁ。
……なんてことを考えながらまた火に薪をくべている。思うようになるから楽しく、思うようにならないから楽しい。火はいいな。
 

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