カレーになりたい 171122

仲間に真似される(パクられる)、というのは、気持ちがいいものだ。
数年前、ナイル善己くんが、「やさしいインド料理」だったかな、すばらしい本を出版した。過去に出たインド料理本の中で圧倒的にいいんじゃないかという印象を持った。善己の実力は抜群だけど、それ以上に編集者が優秀なんだな、とも思った。具体的に中身を見ていると、なんだか、僕が過去に出した本のエッセンスがいくつも出ているようだ。とある機会に担当編集者に会った。彼女に率直に「すごくいい本ですね!」というと、「水野さんの本をたくさん参考にさせていただきました」と言う。僕が玉ねぎの炒め色を「ウサギ、イタチ、キツネ、タヌキ、ヒグマ、ゴリラ」で表現しているが、この中でタヌキ色を採用したのも善己くんだった。
去年か一昨年、僕がカリ~番長をやめようと決めた時に、新しい肩書をどうしようか、と考え、「スパイスハンター」にしよう、としたことがある。シャンカールにそのことを話すと、「いいなぁ、それ。俺も名乗りたい」と言う。「スパイスハンターは俺だからダメだよ」と冗談を言って話が終わったが、その後、ネットのニュースに出ていたシャンカールが僕よりも先に肩書きにスパイスハンターを名乗っていた。断りもなく(笑)! しかたなく、僕は、スパイスハンターの肩書をあきらめた。
つい最近、バラッツが、自社のタンドーリチキンミックス(超ロングセラー)の新しい宣伝文句として、「ヒーローになれるタンドーリチキン」というフレーズを使っていた。このフレーズはそっくりそのまま僕が今年の6月に出した新刊の中で使った言葉だ。僕自身もAIR SPICEでタンドーリチキンミックスを開発中だったから、自著と連動して商品名事態を「ヒーローになれるタンドーリチキン」にするつもりだった。でも、それも諦めた。
AIR SPICEのタンドーリチキンミックスについてもう少し書くと、商品名を諦めた僕は、何を考えたかと言うと別の名前をつけようとしたのである。別の名をつけるということは、コンセプトを変える必要が出てくる。タンドーリチキンを作りたいと思う人はどんなことを望んでいるのだろうか。それを考えた。結果、商品名は、「あなたに捧げるタンドーリチキン」となった。2色2種類の味わいのタンドーリチキンを作るためのミックススパイスが2袋入っている。スタンダードなレシピのほかに、「ヒーローになりたいあなた」、「なまけもののあなた」、「ストイックなあなた」という3タイプの人に向けてレシピのアレンジ方法を細かく書いた。結果、この商品は、6通りのタンドーリチキンの中から好みの2つを選んで作れるセットとなった。昨日から発売を開始している。
何かを諦めたり、新しいハードルができたりすると、それを越えた時にさらにいいものが生まれる。そんな経験をこれまで何度もしてきた。真似されることは光栄なことだ。真似している本人は真似しているつもりはないかもしれないし、自分でたまたま僕と同じことを考えたのかもしれない。そして、僕だってきっとどこかで誰かを真似しているのだろう。だから、真似する相手が僕の仲間であろうと見知らぬ誰かであろうと僕は構わない。僕は僕がアウトプットしたものに対して何一つ著作権を主張するつもりはない。だから、いいなと思ったものがあったらどんどん真似してくれればいい。それで誰かがお金もうけをしていても全く不満はない。そのとき僕はもう別の場所にいるはずだし。
これからやろうとしていることを先に取られても構わない。カレー計画のサイト内には、僕が将来やりたいプロジェクトの切り口が100個くらい並んでいる。ある人がそれを見てこう言った。
「水野さん、あれ、大丈夫ですか? あんなにたくさんアイデアの源を明かしてしまったら、絶対にパクる人が出てきますよ」
いいじゃない、別に。と思う。「それ、いただき」と思う人が先にやっても、僕がやるときは別の形を探せばいい。名前を取られたら別の名前を考えればいい。僕がやれないことを誰かが実現できるのだとしたら、どうやってそれが形になっていくのかを見てみたい。どうせ僕が死ぬまでやり続けたって、今やりたいことの10%もできないのだから。
もう、いっそ、すべての権利を放棄しようかな(笑)。

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