カレーになりたい 171104

やっとパリの「Dersou」に来ることができた。
欧風カレー番長メンバーの関根拓くんの店だ。いまや世界的に知名度を上げ、世界各国から声がかかって駆けずり回っている彼の料理が食べられる。しかも、同じく欧風カレー番長メンバーでロンドン在住の渡辺くんと二人で。カウンターに腰かけ、ときおり調理場の関根くんと会話を交わしながら頂いた。
どの料理もおいしく驚きの連続だったことは言うまでもないけれど、もっとも印象に残ったのは、何品めかに牡蠣のひと皿を出してくれたときだった。
「牡蠣はあってもなくてもどっちでもいいんですよね」
関根くんは僕に料理の説明をしながらポロッとそう言った。僕がそれを聞き逃さなかったのは、この夜、最も共感できた瞬間だったからだ。
牡蠣の料理を出しておいて、「この料理に牡蠣は要らない」と言う。「じゃあ入れるなよ」ということではない。
創り手、送り手が本質的に大事にしていることは、意外と表に見えている表情には表れていなかったりする。端的に言えば、この場合、「牡蠣が主役の料理を作ったけれど、味わってもらいたいのは牡蠣ではない」ということだ。
たとえ、送り手にそういう意図があったとしても、受け手がそう感じない場合も多い。でも、それは受け手の自由だ。だから表現者は受け取り方をコントロールすることはできない。
「牡蠣は要らない」という発言は、本当はしてはいけない発言だということは関根くん自身が一番わかっていると思う。それがぽろっと出てしまったのは、話している相手がきっと僕だったからだと思う。普通のお客さんには絶対に言わないだろう。
僕自身もそういうことがたくさんある。正確に届けたいという気持ちもあるし、そうじゃなくてもいいか、という気持ちもある。諦めではなくて自分の手を離れたら自由に楽しんでくれればいいと思うから。
関根くんも僕もステージやレベルは違えど、「本当はそこじゃないんだよな……」という気持ちをたくさん抱えて表現しているんだなぁ、とすごく嬉しくなった。そんな彼とは2日後に一緒に料理をすることになっている。本当は言うべきじゃないこともたくさん議論しながら過ごせる楽しい時間になりそうだ。

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