カレーになりたい 171010

チェティナードか、スリランカか、それが問題だ。
というわけで、スリランカ帰り、パリ20年在住の明子さんとシャンカールと下北沢で飲んだ。来年2月のチャローインディアの旅程を確定させるための情報収集の一環である。僕同様、チェティナード料理に偏った興味を持つ下北沢「moona」の諏訪内くんのところに行って飲みながら、チェティナード話に花を咲かせようと思ったのだが、店の前まで行ったら、「10月10日~20日・臨時休業」とのこと。う、うそ……。
ムーナに行けないなら、どうしようか、と3人で思案。この時期、下北沢はカレーフェス的なもので盛り上がっているが、僕らの心はムーナだったから、他のカレーを食べに行く気にはなれない。仕方がないからウロウロしたのちに、とある和食の居酒屋に入った。入り口の壁をふと見ると貼り紙がある。半紙に「カレーはやってません」と書いてある。
そうか、この店は、町がカレー色にそまる下北沢で、カレー目当てに大挙して押し寄せる客たちにガッカリさせないよう、事前に手を打っているわけだな。僕たちは大丈夫。日本酒を傾け、刺身をつまみながらインド・チェティナードについて、いや、スリランカについて語り合うつもりなのだから。
ホヤをつまみながら、シャンカールが隣に座る明子さんからスリランカについての話を聞いている。向かいに座った僕は、2人を眺めている。だいぶ早い段階から、シャンカールの目が、「スリランカに行きたい」と言っているのがわかった。そもそも、今回のインドでスリランカに寄りたいと言ったのはシャンカールだった。僕は反対した。だって、テーマはチェティナード料理なんだ。僕は、インドに遊びに行っているわけじゃない。テーマをどこまで深く掘り下げるつもりで行くのだ。関係ない国へ寄ってうつつを抜かすわけにはいかないじゃないか。
でも、ちょっと行ってみたいという気持ちはあった。僕はスリランカに行ったことがない。シャンカールもない。だから、行ってみたいという気持ちはある。ただ、そこは共通しているものの、それとは別に互いに考えていることがあった。シャンカールがスリランカに行きたいのは、最近、スリランカがトレンドになりつつあるからである。天邪鬼な僕は別のことを考えている。トレンドになりつつあると、興味が湧かなくなる。みんなが見ている方向を一緒に見るのは好きになれない。
だから、僕は、スリランカ料理に具体的、積極的な興味を持つ日が来るまで旅は控えていてもいいと思っているのだ。そんなことより、チェティナード料理に真剣になりたい。色々と調べていると、チェティナード料理を生んだチェティアールという商人カーストたちは、商売目的に世界中に渡った。そのうちの主な国のひとつがスリランカなのである。そうなってくると、僕もスリランカには前向きになれる。
そんなこんなが錯綜しているこの時期に、明子さんからスリランカ話を聞く。ともかく、スリランカを絶賛する彼女の話に耳を傾けるシャンカールは、もう、スリランカ行きを決めてしまったようだった。相づちのうち方がおかしい。明子さんの意見に同調しているのか、自分の気持ちを盛り上げようとしているのか、ともかく会話のエッセンスを汲み取っては、真顔でさも真面目に今回の旅を考えいているような雰囲気を漂わせながら聴いている。普段、ニコニコしているシャンカールが真顔になるときは怪しい。僕はもう半ばあきらめた。いいだろう、僕も行きたい。チェティナード料理のエッセンスが残っているかもしれないのなら、スリランカにちょっとだけ寄る手もなくはないのかな。さて、そろそろ旅の計画を決め込まなければならない。
きっと、チェティナードか、スリランカか、それが問題なわけじゃない。
水野の意見を通すのか、シャンカールの意見を通すのか、それが問題だ。

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