カレーになりたい 170914

金沢で、「水野仁輔 金沢スパイス研究所」という個展がスタートする。3か月間。しかも、僕にとっては人生初の個展である。そもそも僕は「カレーの人」なのであり、画家でもアーティストでも作家でもない僕が個展をするということ自体、どう考えても変だ。展示するものは、スパイスと決めた。ただスパイスを飾るのではなく、訪れたお客さんが、その場で個別のスパイスを調合し、オリジナルのミックススパイスを作って展示していくというスタイルを取る。すなわち、個展の会場に作品を飾るのは僕だけではなく、お客さんたちも、ということになる。
ギャラリーでスパイスの準備や設営をした。この個展では、ちょっとだけユニークなものを使って、お客さんがスパイスをブレンドすることにしている。それは、ターンテーブル。わかりやすくいえば、回転寿司屋さんで寿司皿をまわしているあの機械だ。金沢は魚がうまいことで有名だが、噂によれば、回転寿司でさえ、東京のそれとは比べ物にならないほどのクオリティだという。回転寿司が盛んなこともあって、ターンテーブル(っていうのかな?)の製造業者さんもいる。
その会社が寿司屋用ではなく、自社のプロモーション用に作ったかっちょいいターンテーブルがあって、それを個展会場のど真ん中に置いて、スパイスの入ったボトルをゆっくりと回転させるのだ。お客さんはその前に腰かけて目の前を流れてくるスパイスを自由に手に取ってブレンドする。
こんな風にスパイスを展示するのは間違いなく前代未聞の事態である。どんなことになるのだろう。ああ、楽しみだ。設営しながら自分でもワクワクしているのがわかる。ターンテーブルにボトルをのせて試験的にスイッチを押したときは心が躍った。この手の楽しい気持ちを抱くのはちょっと久しぶりかもしれない。アイデアを出しあって、誰もやったことのないことに取り組む。それが決して大それたことではなくて、ちょっとクスッとするようなことだったり、「バカだよね」とか突っ込まれかねないようなことだったりする。そういう些末(?)なことに一所懸命になれることに幸せを感じる。
そして、そんな気分が久しぶりだということは、裏を返せば、このところの僕の活動は、自分自身の中で想定内のことばかりだったのだなぁ、と反省した。もっとこういうことに時間を使って取り組んでいきたい。個展はまだ始まっていないというのに、もう次のことを考えてしまうのもいかがなものか、だけれど。
ちなみに、そのターンテーブル、正式にレンタルしようとすれば、1日3万円かかるそうだ。3か月の個展で270万円。いったいどうやって借りてくれたんだろうか。金沢七不思議のひとつである。

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