カレーになりたい 170907

水野仁輔という男の人格と水野仁輔が作るカレーの人格とを切り分けることができたらいいなぁと思うことがある。
縁あって、ストッキストというイベントの出展者が集まる中夜祭でカレーを出した。ほとんど何の情報もないまま、友人が営む大和桜酒造の焼酎を使ったカレー、というテーマだけをもらってカレーを作ったが、どうも聞くところによると、15年以上も続く、超人気イベントで、全国各地の選ばれしモノづくりの作り手さんたちが大集合する展示会だという。異様に意識が高くお洒落な人たちが大集合している場所だそうだ。主催者も僕は交流のある人だったから、なんとなく会の様子は想像がついた。ついただけに、足がすくむ。イケてる人たちに紛れ込んで、きっと僕は居場所がなくなるのだろう。
他にもカレーを出す人がいると聞いたから、どんなお店が出るのかを確認したところ、2人だけ知っている人の名前があった。「ビートイート」の竹林さんと「ダバクニタチ」のトオルくん。ああ、このふたりが現場にいるのなら、と少しだけ安心してカレーを作り、持ち込む。現場はものすごい活気で、人も多く、どのブースも魅力的に見え、なんだか目まいがしそうになった。途中、会場で知人や友人に何人も会った。疎遠にしていて会いたかった人とも交流ができた。
さて、中夜祭が始まる。会場の関係でカレーは対面でサーブではなく、セルフで盛り付ける形式だったから、早々に手持ち無沙汰になった僕は、予定通り、居場所がなくなった。助けを求めるようにビートイートの竹林さんと乾杯して雑談をする。彼女もカレーを作ってきたものの、僕同様、なんとなく居場所を無くして困っているようだった。
「今日、これ、何時までなんですかね」
「9時くらいじゃないですか」
竹林さんは2年目の参加だったから、なんとなく会のイメージはできているようだ。
「そうか、9時か。じゃ、間に合わないな」
「どうしたんですか?」
「目白駅が近いから、行きたい酒屋さんがあったんですよね」
「酒屋さん?」
「そう、モルトウィスキーの品ぞろえがすごくて。なかなか行く機会がないから今日はチャンスだな、と」
「ちょっと抜け出して行っちゃいましょうか」
「あ、それいいね」
僕たちは多くの人でごった返す会場をこっそり抜け出し、目白駅すぐにある「田中屋」へ行った。いつものように店長にモルトの解説をしてもらい、ちょっと奮発して3本を買い、会場へ戻る。まだ会が始まって1時間も経っていないのにカレーはなくなっていた。
イベントでカレーを出す時はできる限り現場に行きたい。僕が長年、ケータリングをしていないのはそれが理由だ。カレーだけを届けてお金をもらっても楽しくもなんともない。現場にいるのなら、対面でサーブしてお客さんとコミュニケーションをとりたい。それがイベントの醍醐味だ。でも、今回のようにセルフ形式になったら、僕は鍋の脇に立っているわけにはいかない。鍋の前には行列ができていて、僕が立つスペースはない。
会場に入るけれど、カレーは少し離れたところにあって、お客さんが自由に盛り付けていく。この形はイレギュラーでちょっと不思議な感覚になった。
作り手の僕は、なんとなく会場の空気に圧倒されて居場所をなくし、そわそわしている。でも、僕が作ったカレーは、僕から離れたところで多く人に行列を作られ、大人気。僕の人格と僕のカレーの人格は別に存在しているようでもある。この状態を僕はこれまで良しとしてこなかった。カレーは僕が作るべきだし、僕が作ったカレーは僕が提供するべきだ。その条件が揃わなければカレーを作る楽しみは半減する。それが僕のポリシーだ。それはこれからも変わらない。でも、今日みたいにカレーが別人格を持って愛され、作った僕がかやの外にいる形も悪くないのかも。それを突き詰めれば、僕がいなくてもカレーがあればいい空間や時間も成立しえるということだ。
“独り立ちできるカレー”は、今後のテーマのひとつになりそうな気がする。空になった鍋をバッグに入れて会場を後にする。行きよりも帰りの方がバッグが重たくなっていたのは、間違いなくモルトウィスキーのせいだろう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。


*

CAPTCHA


▲UP