大阪・梅田蔦屋書店で、『いちばんやさしいスパイスの教科書』の出版記念イベントを行った。50名の参加者を迎え、「自分史上最高のミックススパイスを作ろう」として、スパイスとは何か? 的な講義と実際にスパイスをブレンドするワークショップをする。ちょうど梅田には紀伊國屋書店があるため、『幻の黒船カレーを追え』の担当者に挨拶に行った。色々とカレー本についてお話をしていると、彼女は、僕の『水野仁輔 カレーの教科書』が一番好きだ、と話してくれた。4年前にプロ向けに出した専門書だが、書店員さんがそう評価してくれるのはとても嬉しい。
『カレーの教科書』といえば、少し前にNHK出版の担当編集者から、「レシピ本大賞にノミネートして、今年から新たにできた技術書部門をトップで通過しました」という連絡があって、ちょっと複雑な気持ちになった。レシピ本大賞は、僕は2年ほど前(だったかな)、『まぼろしカレー』という本が入選し、お世話になった賞だ。あのときは今以上に複雑な気持ちだった。というよりも、ちょっと腹が立った。当時の僕は、賞に興味がなく、というか、むしろ好きじゃなく、その僕の気持ちを知らないまま、確認も取らずにノミネートしたことに対して編集者に不信感を持ったからだ。ただ、結果的には、賞は自分の好き嫌いではなく本の制作に関わったすべての人に喜んでもらえる機会になるなら、いいことだと思いなおした。結果、初版から一度も増刷できないでいた『まぼろしカレー』は、一気に追加で1万部以上が売れた。頑張って作った本が多くの人の目に留まる機会に恵まれてよかったと思った。
とはいえ、今でもやっぱり僕は、賞には興味がない。だから、『カレーの教科書』が同じように僕に確認もなくノミネートされていることにビックリしたし、またか、とちょっと複雑な気持ちになったのだ。著者に事前に確認を取らないのは、レシピ本大賞にノミネートする時の慣例なんだろうか。ノミネート後の審査を通過しなかったら申し訳ないから、みたいな理由だと聞いたことはあるけれど……。『まぼろしカレー』は発売後、なかなか浮かばれない状態にあったから結果的にはよかった。でも『カレーの教科書』は、3500円以上する高価な本だが、4年で5刷か6刷をし、熱狂的な読者からの声をよく耳にする。すでにロングセラーとして愛される可能性を感じる著書だから、何もレシピ本大賞の力を借りなくても……。
しばらくして、NHK出版の担当編集者から、「残念ながら技術部門のグランプリを逃しました」と連絡があり、少しほっとした。あの本には派手な賞は要らない。細く長く愛されてほしいと思う。ま、あの本に賞は欲しいがこの本に賞は要らない、などとずいぶん、勝手なことを言ってるなとは思う。そもそも、賞なんてなければいいのにな、とやっぱり思ってしまう(笑)。

