カレーになりたい 170827

ひとりで食事をするときは、たいてい、文庫本を読むか原稿をチェックすることにしている。いまは、原稿のほうが少し落ち着いているため、文庫を読む。のだけれど、読みながら食べるのは行儀が悪い。料理が運ばれてくる直前まで本を読み、食べる時に本を閉じて食べる。これが理想なのだけれど、どうしても、読むのをやめたくないときは、まあ、カレーに限って、読みながらもよしとしようと自分で決めている。定食とかは気が引けるのにカレーはあり、というのは、たぶん、スプーンひとつで食べられるからだろう。これが、神保町でカレー屋が増えた理由だという説もあるけれど、それはさすがに後付けだと思う。
さて、下北沢で友達のカレー屋さんに行った。カバンに入れていた本は、羽生善治さんの『闘う頭脳』(文春文庫)だ。3か月くらい前に買って、開いていなかった。ロングインタビューからスタートするこの本を読み始めて、冒頭からいきなり激しく納得してしまった。
「なんのために戦うのか?」といった意味合いの質問に対して。

***
今年はこのタイトルを獲ろう、とか、誰かに勝とう、というような目標の立て方は、私の場合はしないですね。
(中略)
棋士は私にとって職業ですが、ならば賞金を稼ぐことが目標かというと、それも違います。
(中略)
とは言え三十年ずっとプロ棋士を続けてきたわけで、その理由がなにかと考えてみますと、「将棋の全容を少しでも解明したい」という静かな気持ちはあります。あえて言えば、これが棋士を続けるモチベーションになっているのかも知れません。
***
 
もうこんなにグサグサと来ることを語られてしまうと、本を閉じてカレーを食べ終わるまで我慢することはできない。羽生さんの三十年のキャリアに比べて僕は二十年と、まだ浅いけれど、全く同じだと思った。将棋をカレーに置き換えればそのまま自分の気持ちを表現できる。
誰かよりもおいしいカレー、どこかの店よりもおいしいカレーを作ろうとは思っていない。お金を稼ぐことも目標ではない。僕は、「カレーの全容を少しでも解明したい」からカレーを作り続けているのだ。これを読んでしまったせいで、急激にカレーが作りたくなり、AIR SPICEの8月テーマ「バターチキン」を作った。結果、バターチキンというカレーは、究極的にはホールスパイスはひとつも必要ないんじゃないかと思った。鶏肉のマリネに使うパウダースパイスに香りのすべてを背負わせてしまうほうがいい。
この気づきがカレーの全容解明に貢献したかといえば、自信はないが……。
 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。


*

CAPTCHA


▲UP