ちょっとした縁があって(主催社に高校の同級生がいたので)、スマートキッチンサミットに登壇して20分の短いスピーチをした。Iotで未来の料理をどう変えていけるのかを探るシンポジウム、という感じかな。旧式人間の僕には内容的には超アウェイ。場違い。ここにいていいのかな、的な感じ。ま、でも、話したいことがあったので、簡単なスライドを作って臨む。
テーマは、「カレーのオープンソース化」。
著書『カレーライス進化論』の後半で語った内容に近い。1年以上前から始めているAIR SPICEはスパイスの配合をすべてグラム単位で公開しているし、この6月からフードトラックを始めてカレーのレシピをオープンソースにし始めているので、実践している活動があるのは話に説得力がついていい。
「僕は普段、カレーやスパイスのことばかり考えている人間なんで、今日も20分間、カレーの話しかしませんが、みなさんは、僕の話を自分の関心のあるジャンルに置き換えて聞いてくださいね」
そう前置きして、話した。いつも90分くらいの講義や講演をしているから20分という時間は、あまりに短すぎてあっという間に終わった。午前9時30分からスタートして18時30分まで終日、さまざまな人が登壇するシンポジウムで、僕はトップバッター。質疑応答も含めて11時過ぎに出番が終わるとすぐ会場を離れ、カレーを仕込みに行く。リーダーと合流して、フードトラックで出しているオレンジカレーとレモンカレーを作った。夕方に会場に戻って夜の懇親会でカレーを提供することになっていたからだ。
スマートキッチンサミットで僕がただスピーチをするだけではなく、夜にカレーを提供できる場があったことは本当によかった。スピーチを聞いてくれた人にリアルに味わってもらえるのは、とても嬉しい。しかも僕は、懇親会とか異業種交流会とかパーティみたいな場にあまり慣れていないから、いつもどこにいていいかわからなくなり、居場所をなくす。でも、カレーを出す仕事があれば、僕は会場にいる理由ができる。
そういえば、10年以上前に友人が営む恵比寿の眼鏡屋さんで周年パーティでカレーを出してくれ、と頼まれて行ったとき、メンバーが結構いて暇だったので、案の定、居場所がなくなり、ワイワイガヤガヤと超盛り上がる会場を抜け出し、通りに出てボーッとしていたことがある。困ったな、どうしようかな。帰る訳にもいかないしな。そんなことを考えながらふと横を見ると、少し先に料理家のケンタロウさんが独りで佇んでいた。彼も同じパーティに来ていたのだけれど、居場所がなくなって外に出てきたみたいだった。ケンタロウさんなんか有名人なんだから、彼としゃべりたい人は会場の中に山ほどいただろうに。あのとき、ちょっとだけ会話を交わしたかもしれない。
「カレー、おいしかったです」
「ありがとうございます」
ひと言ふた言くらいだったかな。覚えていないけれど、ああ、この人も自分と同じ人種なんだな、と思って嬉しくなったのを思い出す。
スマートキッチンサミットの僕のスピーチは、予想以上に好評だったようで、結局、僕はせっせとカレーを出しながらも、入れ代わり立ち代わりにいろんな人が来てくれて、声をかけてくれた。みんな、「とにかく話が抜群に面白かった」、「刺激を受けた」と嬉々として語ってくれて、嬉しかった。「カレーのオープンソース化」というテーマがこんなにウケるとは思わなかった。
ただ、僕がこの日のイベントで最も満足できたのは、フードトラックで出しているオレンジカレーのほうをいつもよりずっと辛めに仕上げることができたことだ。もっと辛い方が好きだな~、でも、やりすぎちゃいけないな、といつも我慢していたから、このイベントでは我慢せずに辛口で作ったのだった。
「オレンジは辛口、レモンはスッキリです」
というシンプルな解説を行列するお客さんたちに向かって連呼し続けた。すると、なぜか、ほとんどの人がそれを聞いて、辛口のオレンジのお皿を手に取って行く。意外なことだったが、ちょっと爽快感があった。やっぱり、シンポジウムで登壇するより、会場でカレーを作って出すほうが圧倒的に楽しい。僕の居場所はここにあるなぁ、と改めて思った。

