カレーになりたい 170818

舞台や芝居の初日に、お店の開店時に、イベント現場に花輪や鉢植えが飾られることがある。あれは贈りたい気持ちになることもあるし、贈られると嬉しいものだけれど、どうにも昔からしっくりこないのが、でかでかと自分の名前を書く習慣だ。あれ、品のいいものじゃないなぁと思う。
2か月前に開店した「ハバチャル」へ行った。オーナーシェフの飯塚くんは、表参道の「バラッツスパイスラボ」でシェフをしていた頃から、自分の店を開く構想を持っていたのだろう。千歳烏山の駅近くにオープンした。開店時に花を贈ることもできたがやめておいた。というよりも、そういうことはしないようにしている。
「祝開店! ハバチャルさん江 水野仁輔」
なんか気持ち悪い。お祝いしたい気持ちは飯塚君だけに届けばいい。お店に来た人に水野が飯塚君を祝う気持ちがあって何かを贈ったことをひけらかす必要はないのだから。あの風習は、贈られる側と送る側の自己顕示欲がピタリと一致しそうな関係において成立するのだと思う。
おそらく、贈る側がそれなりに有名人で、「◎◎さんと関係があるんだ~」みたいなことを第三者が知って送られた側の価値が少しでも上がったり、興味を持ってくれたりするケース。それを贈られた側は喜び、贈る側は自分自身の影響力をそれなりに自覚できているケース。とてもレアなケースにのみスマートに成立する行為な気がしてしまう。まあ、とはいえ、自分が第三者的なお客だったとしたら、花輪の名前をチェックしたりするのも楽しかったりするからなぁ。
ともかく僕がそういうことをするのはちょっと性に合わないから、たいてい知り合いがカレー店を出した時は、花のようなものは贈らず、数か月以内にお店を訪れた時にちょっとした贈り物を本人にこっそり手渡すことにしている。店に向かう前に飯塚君にはモルトウィスキーをあげようと思った。千歳烏山の駅に降り、酒屋を探したが、見つからない……。しかたなくスーパーのLIFEの酒コーナーを探す。当たり前だが、スコッチのシングルモルトは一本も置いてなかった。呑んだこともない銘柄のブレンデッドウィスキーを買っていった。飯塚君は喜んでくれたけれど、「あげたいの、これじゃないから、今度また買ってくるわ」と言い訳をしておいた。久しぶりに目白の田中屋に行かなきゃな。
話を聞いたら、千歳烏山は、飯塚君の地元だという。地元にカレー店を出す。素敵なことだと思う。混雑した店内でたまたま相席になった女性が話しかけてくれた。
「よく来られているんですか?」
「いや、初めてなんです」
「ここのカレー、ほんっとにおいしいですよ!」
中学の同級生だそうだ。中学の同級生が旧友の作るカレーを手放しで褒め、たまたま相席になった初めましてのお客さんにキラキラした目でオススメする。飯塚君のカレーがおいしいのは僕も知っている。……のだけれど、あまりに真っ直ぐなセリフに「知ってます」とはさすがに言えなかった。素敵な店だなぁ。

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