カレーになりたい 170815

郵便局に行った。もう、地元の郵便局で僕は何者かが知られている。どこまで正確に素性を知られているかは知らないが、スパイスとかカレーのことをしている人、という認識は少なくともある。
毎月、AIR SPICEの封筒をどっさり持って通っている男だからだ。
ただ、今日はいつもとは違う用事で、ただ切手を買いに行った。いつも対応してくれる男性局員ではなく、女性局員がたまたま窓口だった。会計を済ませると、彼女は、少しだけ遠慮がちに尋ねる。
「どうしてカレーのことを始めることになったんですか?」
あまりに唐突なことに質問の内容を聞き返してしまった。なんとなく、郵便局の窓口の方とそういうプライベートな話をするイメージがなかったからだ。なぜ、そんなことを!? と思ってふと自分の着ているTシャツに気が付いた。カレーの学校の卒業生が作ったオリジナルカレーTシャツを着ていたのだ。
「なんかカレーのことを始めるキッカケがあったのかな~と思って……」
と説明を加える彼女に僕はしどろもどろ。
「あ、いや、小さい頃に行ってたカレー屋さんの影響で」
「それで自分でもスパイスを調合してみようと思ったんですか?」
「あ、ま、まあ、そんなところですね」
小さい頃に通ったカレー屋がキッカケだというレベルでみんながスパイスの調合を始めたら、日本中がスパイスの調合家だらけになってしまう。そんな一足飛びにはいかないよ、と思ったのだけれど、仕方がない。
「へえ!」
と必要以上に関心してくれる彼女に向って、
「いや、だから、たいしたキッカケじゃないんですよ」
とかなんとか言って、僕は逃げるように郵便局を飛び出した。自転車に乗って走りながら思い返す。なんと面白くもなんともない返答をしてしまったのだろう。ユーモアのかけらもないじゃないか。
「どうしてカレーのことを始めることになったんですか?」
「おばあちゃんがインド人なんですよ」
「え! そうなんですか!?」
「いや、ウソです」
せめてこのくらいの会話は瞬時にできないといけなかったな。

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