カレーになりたい 170713

埼玉県川口市でトークイベントがあった。新刊「いちばんおいしい家カレーをつくる」の出版記念だ。90分間、スライドとホワイトボードを使った割と真面目なお話をし、20分ほど質疑応答をして会は終わった。うれしいことに帰り際に新刊を購入してくれた人たちでサインの行列ができる。15人目くらいの男性が僕の前に立った。いつものように名前を聞いてサインを書き始める。
書いている途中に質問したかったことや伝えたかったことをたいていみんな、話しかけてくれる。その男性も同じように口を開いたのだけれど、出てきた言葉が意外だった。
「エンドウジュンヤさんってご存知ですか?」
一瞬、頭の中で自分がこれまで出会ってきた遠藤という男性を思い出す。……と、1人の懐かしい顔が頭に浮かんだ。大学時代のエンドウ先輩だ。
「あ! 知ってます。え? でも、なんで、エンドウさんを」
「実は、いま職場が同じなんです」
エンドウさんは、大学卒業後、市役所に就職していた。よく見れば目の前の男性は、ネクタイはしていないものの、きちっとしたシャツを着ていて律儀な印象である。驚いた。まさか、こんなところでエンドウさんの名前が出てくるとは。
エンドウさんは、僕が学生時代に所属していた写真部の先輩だった。エンドウさんが撮る写真は他の人にない視点があってとても素敵で、プリントには独特の味があって、いつか僕もああなりたいと、強烈に憧れていた先輩だった。憧れていたけれど、本当は心の片隅でライバル視もしていた。いつか、超えてやると思っていたのだ。
部室内にある暗室にこもって写真を焼いているときは、ブランキ―ジェットシティーがかかっていた。だから、部室を訪れてブランキ―が大音量でかかっていたりすると、僕は「エンドウさんが暗室にいるんだ! どんな写真を焼いているんだろう?」と作品ができるまで部室でわくわくして待った。エンドウさんは、あの当時、自分の最も身近にいるアーティストだったなぁ。
まさかカレーのトークイベントに行って、大学卒業以来、20年ぶりくらいにその名前を聞くことになるとは思っていなかったから、イベント後の打ち上げでは、なんの関係もないスタッフを前に僕は興奮してエンドウさんの話をし続けた。そういえば、勤め先で、エンドウさんも僕の話をたまにしてくれていると聞いた。その同僚の方の話によれば、写真はいまでも撮っているそうだ。作品を見たい。僕は持ち合わせの名刺がなかったので、紙きれに僕のメールアドレスとメッセージを書いて同僚の男性に渡した。
「エンドウさん、こんどおごってください。みずの」
飲みに行ったら話はつきないんだろうなぁ。でも、会いたいような、会いたくないような、複雑な気持ち……。


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