「喝采! 家カレー」をはじめとする4冊のシリーズが、
おそらく、過去のカレー本にないレベルでヒットした。
それら4冊分のレシピのいいとこどりをしたベスト版。
何年か前に出版社からオファーがあって以来、ずっとお断りし続けてきた。
ベスト版はやりたくなかったから。
気に入りのミュージシャンがベストアルバムを出すと、ちょっと落胆する。
なんとなく、これから先にあまり期待できなさそうな感じがしてしまうからだ。
ベストというのは、「これで終わり」、「これ以上は進歩できません」と
降参しているような印象がある。
ベストを出すなら引退する時だと僕は思う。
同じ理由で、「日本一」とか「世界一」とか「究極」とか、
そういう表現も避けてきた。
最近、雑誌やムックでやたらと多い表現だけど、
「日本一」こそ「終わり」、「自分自身の限界」を認めているようなものだ。
「日本一」を出してしまったら、その後に出すものは
すべて「日本二位」以下になる。
それでいいの? と思ってしまう。
ああ、でも、僕はベスト版を出してしまった。
後悔するときはまもなく来るのだろう。
ただ、著者としては、ベスト版は避けて通りたい本だけれど、
読者からすれば、ベスト版は嬉しい一冊になるだろう。
ここ数年、自宅でカレーを作る人の数が減っているらしい。
食品メーカーはカレールウが売れず、レトルトカレーが売れる世の中に
かなり危機感を持っているようだ。
みんなが自宅でカレーを作らなくなってしまったら、
カレーで何か新しいをしようとしても、幅が狭まってしまって僕自身も楽しめない。
この「家カレー」シリーズのようにカレールウを使って作るレシピは下火で、
一方、スパイスを使って作る「スパイスカレー」の世界は少しだけ盛り上がっている。
この状況はなんとかしたい、という気持ちが少しはあったかな。
出版社からの再三のオファーに対しても、そろそろいいにしようか、
と気持ちが動いた部分もあったかな。
ともかく、僕はベスト版を出してしまった。
でも、これはベスト版であってベスト版ではないと信じたい。
いい機会だから、僕がイートミー出版の企画として、だいぶ昔から、
ずっとやりたいと思っていたシリーズをサイトに公開することにした。
まさにミュージシャンが出すアルバムと同じような切り口で、
レシピ本が次々と出せるんじゃないか、という企画だ。
ベスト、アンソロジー、トリビュート、ライブ、などなど。
いつか、やりたいと思っている。
37冊目/家カレー・ベスト
カテゴリー: 僕はこんなカレー本を出してきた