38冊目/スパイスカレー事典

スパイスカレーの“事典”である。
帯に書かれた「スパイスカレーのすべてがわかる」という表現は、
今現在の僕にとっては、嘘偽りないものだ。
たいてい、この手のフレーズは、来月くらいには
「言わなきゃよかったなぁ」と悔やむ可能性が高いのだけれど……。
グラビア写真のようなスパイス図鑑を作り、スパイスで作るカレーのレシピを満載し、
読者が疑問を持ちそうなポイントについてのQ&Aをまとめた。
後半のモノクロ読み物のページには、スパイスの歴史について綴った物語をはじめ、
スパイスについて医学博士やシェフへの刺激的なインタビューを詰め込んでいる。
この後半部分は、当初の予定には全くないものだったが、
僕がお願いをして相当数のページをもらって書いたものだ。
特に大阪スパイスカレーの盛り上がりについては、僕自身が非常に興味があった。
僕が関西方面を食べ歩いていたのは、もう10年ほど前のこと。
その後、現在に至るまで大阪を中心に関西ではカレー店が盛り上がっている。
噂はいつも聴いていた。
だから、今回の本の制作を機に久しぶりに大阪を食べ歩いてみようと思ったのだ。
予算にない話だから、当然、自腹を切ることになる。
僕は、初版印税のお金(要するに今回の本で僕がもらう予定のギャラ)の
ほとんどをつぎ込んで7~8回ほど泊りがけで大阪出張を繰り返した。
週末ごとに新幹線に乗り、お腹がはちきれそうになるほど食べまくり、
店主と掛け合って取材依頼をしたのである。
本づくりは、僕にとって、カレーの世界に何かを提案するための作品づくりだから、
妥協はしたくない。最善を尽くしたい。
(提案という行為は、お金の儲かる作業ではなく、お金のかかる作業だと僕は思う)
特に今回は、過去のシリーズ作からの転用している部分もそれなりにあったから、
その分、新規の撮り下ろし、書下ろしページに関しては、
いつも以上に「誰もやっていないこと」をアウトプットしたいと強く思っていた。
結果的には、超初心者からプロまでが満足していただける一冊になったと思う。
256ページというボリュームは、僕としては、まあまあやりきったかな、
という気持ちの持てるものである。
(本当は500ページくらいの本をやりたいんだけどね)
   
スパイスカレーというのは、数年前までは一般的ではなく、
奇妙な響きを持った言葉だった。
ところが、最近、スパイスを使ってカレーを作りたいという人が増えている。
できあがるカレーのことをみんながスパイスカレーと呼ぶ。
「はじめてのスパイスカレー」(PIE INTERNATIONAL)を出版したのが、2012年。
その後、毎年のようにいろんな出版社から、
「スパイスカレーの本を出しませんか?」というお話をいただいた。
スケジュールなどの理由から受けられないものが多かったけれど。
少し前まで、カレー本の世界は、ルウカレーブームだった。
「ルウカレーの本を出しませんか?」というお話を毎年のように複数の出版社から
いただいていたのである。
書籍が日本人のカレーライフに及ぼす影響は微々たるものだが、
日本の片隅に存在するカレー本の世界ですら、世の中の気分を反映し、
企画が決まっているのだと実感している。
そんな事情とは関係なく、僕がカレーでやりたいことは尽きない。
ただ、本を出版できるということは非常に嬉しいことだし、いいチャンスなので、
このときばかりは自分のためではなく読者のためになるよう考えて作ることにしている。
類書が立て続けに世に出るこの業界で、
本書は「そろそろスパイスカレー本は、打ち止めにしていいんじゃない?」という、
自分に対する問いかけを内容に込めたつもりだ。
   
また、書籍の発行に連動させて、新しい取組みとして、
「AIR SPICE」というスパイス頒布サービスを始めた。
毎月、レシピ付で使い切りのスパイスが自宅に届くサービス。
著者が出版社からの依頼を受けて本だけ作って出す時代は、
そろそろ限界が来るんじゃないかなぁと思っていて、
(それと、僕自身がそれだけじゃつまらないと思い始めているからなんだけど)
何か、これからは、書籍の出版と連動させた取り組みを模索していきたいと思う。
読むスパイスカレー(スパイスカレー事典)と作るスパイスカレー(AIR SPICE)。
ともに興味を持っていただければ嬉しいです。
   
★ AIR SPICE オフィシャルサイト
http://www.airspice.jp/

   
★ AIR SPICE オフィシャルFacebookページ
https://www.facebook.com/airspice/

   

カテゴリー: 僕はこんなカレー本を出してきた |

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