14冊目/カレーになりたい!

「カレーになりたい!」
この言葉は、東京カリ~番長を始めたばかりの15年ほど前に
知人の前で思い余って本当に口走ったセリフである。
それがそのまま本のタイトルになった。
個人的にはあまり好きなジャンルではないのだけれど、
いわゆる自伝的エッセイである。
こういうものは引退する時に書けばいい。
なのに書いてしまった。あ~あ。
ただ皮肉にもカレーに対する僕の思いやスタンスは
最もよく届く本になっているようで、
「水野さんの数多くの本の中で一番好きです」みたいなことを
言ってくださる方がたくさんいた。
恥ずかしい。
でも、そんなものなのかもしれない。
制作段階で忘れられないことがある。
この本は、インターネット上での連載を6本分(だったかな?)、
書籍化したものである。
書籍の話が先にあったから、連載がたまたま本になったわけではなく、
本づくりに向けた連載を事前にしていたわけだけれど、
その連載のうち、書籍にする段階で、1本分が、編集部の方針で
掲載されないことになった。
僕にとっては、とても大切な1本だった。
そのことは編集部も理解してくれていたようだったが、
本のコンセプトにそぐわない、というのが決定理由だった。
あの時、僕は本当に悩んだ。悩んだし、悔しい思いもした。
なぜ、あの1本を落とさなければならないのか。
僕には解せなかった。
僕の筆力が足りなかいのだろうか、とも考えたけれど、
もしそうであるなら、他の5本も書籍にはならないはずだ。
だとすれば……、
おそらく著者としての水野仁輔に対する信頼が足りないんだろう。
もし水野仁輔が大物作家だったら、編集部はこんな提案はしてこないはずだ。
当時はそう考えた。
いろんな人の目や意見が入ることによって一冊ができていくことは、
僕にとって本づくりの醍醐味なのだけれど、あの一件だけは、本当につらかった。
今思えば、何にしろ筆力は足りないに違いなかったわけだから、
まだああいった本を出せる立場にはなかったのに
チャンスをいただけただけ幸せだと思うべきだったと後悔している。
ただ、一方で、悔しさをバネにしている部分もある。
掲載されなかった1本は、いつか僕が十分な筆力をつけたときに
その1本だけで一冊の本を書いてみたいと思っているのだ。
「カレーになりたい!」にはある意味で、いろんな気持ちが詰まっている。

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カテゴリー: 僕はこんなカレー本を出してきた |

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