カレーになりたい 180731

とある映画のサイトで連載を始めることになった。
最初に話があったのは、今年のはじめごろだろうか。いや、もっと前かな。半年くらいかけて準備したことになる。準備と言っても僕は原稿自体はコンセプトが決まればサクサク×タイプなので、コンセプトを決めるまでの打合せ、内容検討に時間をかけたことになる。
何度かいろんな切り口が出て、僕からも出してもんだけれど、いつまでも納得できず、ズルズルしてしまった。ただ、そこは妥協できない。美意識が高いから、というわけではない。僕が「カレーの人」だから、というのが大きな理由だ。
カレーの人が映画サイトで連載をする。必然性がない。僕が作家やエッセイスト、タレントなどであれば、どこで何を書いても自由だ。いや、僕だってどこで何を書こうが自由なんだけれど、できる限り読者が求めている発信をしたいと思っている。
依頼側は、「最終的に映画を観る楽しみが伝われば、どんな内容でも大丈夫です」というようなスタンスだったのだけれど、「いやいや、おかしいよね。だって、自分はカレーの人なんだから」と自制する。結果、自分の抱える違和感を解消できる切り口になるまではスタートできない、ということで、ここまで時間がかかってしまった。
結果、「旅と映画」的な切り口で海外取材に行ったときのことを綴る連載をスタートすることになった。「旅」と言っても僕の旅の場合は、カレーやスパイスが常にセットである。カレーやスパイスが関わらない旅は僕はしない。だから必然的にその記事は、「カレーと旅と映画」について書くことになる。
しっくり来たので、1本目を最近行ったポルトガルで書くことにした。半年悩んだくせに2時間ほどで3,000文字くらいの原稿を書いた。(もちろん、何度か日を改めて推敲したけれど)。
写真は、旅先で僕が撮ったものを10枚ほど送り、そこから選んでもらう。肝心なのは、タイトルである。連載タイトルと、各回のタイトルを決めなければならない。これはとっても重要で、重要なのに僕はあまり得意ではない。原稿を送る時に仮の仮の仮みたいな、タイトルをつけて担当者に送る。その上で、「僕、あんまりこういうの得意じゃないんで、いい感じのタイトルをつけてください」とお願いした。
その映画サイトは抱えている読者層があって、「こう読んでもらいたい」があって、サイト自体のトーン&マナーがあって制作しているのだから、僕もざっくりとは認識しているけれど、実際のサイトの編集部で考えてもらったほうがいいと思ったのだ。
僕が仮で送った連載タイトルは、「水野仁輔のカレーロードを行く」、記事のタイトルは、「普通だよね、好きだよ、ポルトガル」。まあ、多少は考えたが気分でつけたようなタイトルだ。
その後、編集部で検討してくれ、記事タイトルはそのまま行こうということになった。連載タイトルとは、「水野仁輔のカレーロードムービー」という案が出てきた。僕は、「お任せします」と言ったこともあってか、あまり意見が出てこない。「ま、いいんじゃないでしょうか」と思ったから、そう返答した。
その後、さらに編集部で検討した末、最終的に連載タイトルは、「水野仁輔の旅のおともにカレーと映画」となったらしく、「いかがでしょうか?」と打診があった。僕は正直言って、「どうだろ……? ちょっと微妙かも」と思った。あんまり記事の内容を言い表している感じがしないし、ちょっと要素が多くてすっと入ってこないような気がする。それなら「カレーロードムービー」のほうがいい気がするし、もっといえば、「カレーロードを行く」のほうがよかったような気がしてきてしまった。映画のサイトで連載するわけで、映画のことが必ず出てくるのだから、タイトルに映画をにおわせる必要もないんじゃないか、とか。
でも、僕は、「いいと思います。進めてください」と答えた。10年前の自分だったら、意見を言っていたと思う。でも、いまの僕は違う。そもそも僕は自分にタイトルをつけるセンスがあると思っていないし、それはこの10年間で実証されていると自覚している。それにサイトの連載にしろ、書籍にしろ、僕の作品といえば作品だが、読んでもらう人や読んでもらいたいと思っている人が反応してくれることが目的でもあるから、僕の好みをあまりそこに反映させないほうがいいと思っている。
何より、担当者を含む編集チームはおそらく、僕が想像する以上にいろんなことを考えてくれた結果、そこに落ち着いているのだから、そこを尊重したほうがきっとうまくいくと思う。この辺りの考え方や判断は、ある意味、僕自身がアウトプットの経験を積んで自分なりに学んだことで、わかりやすくいえば「おとなになった」ということなのかもしれない。
タイトルで我を通すパワーがあるなら、次の原稿を一所懸命書いたほうがいい。それでもずっと「ほかのタイトルがいいかも」という気持ちがあり続けるのなら、イートミー出版で書籍化するときにタイトルを変えればいい。あの場所は僕が自分のやりたいようにやれる場所なのだから。ま、きっとそれをやるとうまくいかないんだろうけれど。
そんなこんなでともかく、連載が始まった。これを理由にまた好きな映画を観る時間が自分の中にできるんだな、と思うととっても楽しみだ。
 

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