カレーの仕込みをしていたら、ソースがはねてシャツにシミが3滴ほどついた。これが、コックコートやカレースターTシャツならなんとも思わない。が、来ていたのは、まあまあ気に入っていた長袖の白Tシャツ。胸のところに「CURRY」と書いてあるのを発見して買ったものだ。要するにユニフォームではなく、私服である。昔の自分なら、ちょっと落ち込んでいたが、最近は、なんとも思わなくなってしまった。僕にとって私服は極めて少なくなり、ユニフォーム感覚で着る服が増えているということなのかもしれない。
というよりも、僕は「カレーの人」としてこの世の中で生きているのだから、僕が着ている服は、すべてカレーのユニフォームだと思えばいいんじゃないか、という気がしてきたのだ。カレーの人ではない人が服にカレーのシミをつけていたら、ちょっとはずかしいだろう。でも、カレーの人が服にカレーのシミをつけているのは、当たり前のことじゃないか。はずかしいとしたら、僕のことを知らない人、要するに街中を歩いていたり地下鉄で乗り換えたりしているときにすれ違う人が僕を見たときだ。あーあ、あの人、服にしみがついてるよ……、となるかもしれない。ま、それは別にいいか。僕はカレーの人として生きている以上、カレーの人と認識されないときにどんな印象を与えても、それが不快感でなければよしとしよう。
そうか、僕はどんなときもカレーの人という服を着ていると思えばいいんだな。それで思い出したことがある。先週末、フードトラックの昼休みに「ナイルレストラン」に食事に行き、善己としゃべりながらムルギランチを食べ、店を出て会場のLOFTに向かって歩きはじめたら、昔の会社の同僚とバッタリ。「水野君!」と声をかけられて、顔を見たのだけれど、正直言って、彼女のことを全く覚えていなかった。
「どちらさんでしたっけ?」みたいなリアクションをしたら、名を名乗ってくれた。それでようやく思い出した。おおお! となった後は、銀座4丁目の交差点付近まで一緒に歩きながら雑談をした。
「いろいろ活躍してるね~!」
「ん~、ま、カレーのことしかやってないからね、結果的にそうなるよね」
「でもさー、やっぱりどことなくカレーの匂いがするんだね」
「いや、これは、さっき、ナイルレストランでカレー食ってたからだよ」
「またまた~」
「いや、だから……」
「期待を裏切らないよね」
「んー、ま、そうかもね……」
「なんかさー、顔も昔に比べてさー」
「ああ、なってきてるよね、インド顔に」
もう、途中からは突っ込みに従うしかなくなってしまった。体からカレーの匂いは出てこないし、顔も昔に比べてインド顔にはなっていない。でも、カレーの人としての印象を強めれば、そういう反応になるのは必然なんだろう。
ま、カレーの人なんだからカレーの匂いを放っていても不思議じゃない、ということにしておこうか。でもなー、「あの人、カレーのシミをつけてるね」はありだけど、「あの人、カレーのにおいするよね」はナシなんだよな、なんとなく。その線は、キープしなきゃ。

