カレーになりたい 170902

東京スパイス番長が珍しく、4人、集まった。カメラマンの宗田育子の結婚パーティである。彼女には、東京スパイス番長結成時からずっと写真を撮ってもらっていて、インドにも何度も一緒に行った。新婦代表の挨拶は宗田さんの師匠、野口健志さんだった。野口さんに会うのは何年ぶりだろうか。
野口さんは、その料理写真に色気があって美しいだけでなく、本人がとてもカッコいい。料理写真業界の福山雅治だと僕は勝手に思っているくらい。背が高く声も渋くてユーモアもある。僕は大好きなのだけれど、その昔、一冊、自著を撮ってもらって以来は仕事をする機会がないままだった。久しぶりに挨拶をして話をすると、新婦代表の挨拶を頼まれて困っていた。
「一応、紙に書いてきたんだけどさ、こういうところで挨拶するの人生で2度目だから……」
緊張を紛らそうとしているのか、ビールをハイペースで飲みたがる野口さんのグラス何杯も注いだ。その挨拶に素敵なエピソードがあった。
宗田育子は、つい最近、師匠の撮影現場にアシスタントに入らせてほしいと願い出たという。彼女は独立してから、おそらく、もう、15年以上が経っている。
「それをお願いできるのが宗田だよな」
と野口さんはそう皮肉っぽく言って会場の笑いを誘った。その日の撮影の仕事は淡々と終えたと彼は話を続けたが、僕は、すごく素敵なことだと思った。たとえ、そんな気持ちを師匠に持っていたとしても、それを実行に移せる人はなかなかいないだろう。宗田の人柄や情熱がすごくよく表れたエピソードだと思う。
スピーチが終わり、しばらく歓談が続いているとき、僕は野口さんに近寄って話しかけた。アシスタントを願い出たエピソードが素敵だった、と。野口さんは、宗田には絶対に言わないだろう言葉を照れながら言った。
「冷静に振り返るとさ、師匠冥利に尽きるよね」
すごく嬉しそうだった。師匠がいるとか弟子がいるって、なんか、いいなぁ、としんみりした。僕には、師匠も弟子もいない。なんだろう、東京で生まれ育った人が、地方出身者に対して、「田舎があるっていいなぁ」って思うのと近い感情だろうか。
ただ、うらやましい関係だなと思う半面、自分には師匠がいなくてよかったとも思った。なぜだかはわからない。宗田が野口さんの現場に10数年ぶりにアシスタントに入ったことは、原点回帰を望む気持ちがどこかにあったのだろうか。それとも純粋にまた師匠から学びたいことがでてきたからだろうか。理由はわからない。
僕は戻るべき原点も持っていなければ、何かを教えてくれる人もいない。でも、だからこそ、自分はここまでやれたんだとも思う。戻る場所がないから後ろを振り返る暇もなく先だけを見て全力疾走できているんだと自分では思う。
師匠を今から持ちたいとは思わない。師匠がいなかったからきっと弟子が欲しいとも思っていないのだろう。その代わり、ビリビリと刺激を与えてくれる仲間は山ほど欲しい。僕が必要としているのはきっとそこなんだろうな。そんな風に感じながら、パーティの間、僕は、スパイス番長のメンバーと来年のインド旅についてあれこれと話し合ったのである。

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