ちょっと前から、『LOVE SPICE』という小冊子を自費出版で作っている。僕の好きなカレー屋さんに行って、店主(たいていはオーナーシェフ)とスパイスについてあれこれと対談するものだ。第2号まで出し、その後、3人との対談を終えているから、本来は、第5号まではすぐにでも作れるが、ちょっと僕がさぼっている。それでも、第6号の取材を行った。大阪・谷町四丁目にある『ダルバート食堂』のりょうくんだ。定休日なのにわざわざ店を開けてくれて、誰もいない店内でゆっくり話ができた。
和食で料理人としてのキャリアをスタートし、ネパールでダルバート(定食)との衝撃的な出会いを果たし、神戸のネパール料理店で働いて、自身の店を2年前にオープン。料理のキャリアは10年以上になるが、オーナーシェフとしては、まだ駆け出しだ。それなのに、自分の価値観や向かう先がハッキリとしていて、そんなことをちゃんと話したのは初めてだったので、楽しかった。
「ダサいことはしたくないんですよね」
ネパール料理店を始めるにあたって、ネパール語を習い、ネパールに3か月間滞在し、料理学校で学び、レストランで働いた。現地の空気を知らないで看板を背負って料理を作る気はない。カッコいいと思った。僕も全く同じ気持ちでいる。いや、現地の空気を知らないで……というのは、りょうくんなりのダサいことだから、それに同意するわけではない。中身は違えども、僕も、日ごろからダサいことはしたくないと思っている。ダサいと思うことはたくさんあるけれど、それはみんなそれぞれに違っているんだと思う。別の人から見れば僕自身がしていることの中でダサいことはたくさんあるかもしれない。でも、僕は僕なりにダサいと思うことを山ほど抱えてそれらを遠ざけながら活動している。わかるなぁ。
「人生は長いですから」
これは面白い表現だと思った。人生は短いですから、というのは常套句だ。短いからこそ、今この瞬間にやりたいことをやっておくべきだ、といった表現で使われる。でも彼は、「長いですから」と言った。店を今のスタッフに任せ、自分自身は、年内、大阪のフランス料理店などでアルバイトをし、来年になったらペルーに1年ほどガストロノミーの世界を学びにいくつもりでいるという。なぜペルーなのかは、ここで説明するのは避けるけれど、ものすごいスピード感で先の見通しを立ててそれに向かって走っている34歳。やれることはまだまだ尽きない。そんな文脈で彼は、「人生は長い」と言ったのだ。激しく刺激を受けた。気持ちは僕も同じつもりだ。よく僕は周囲から、「何をそんなに生き急いでいるんですか?」と言った突っ込みを受けることがある。それに真面目に答えることはあまりないけれど、腹の中では、「だって人生は短いから。死ぬまでにできることは限られているから」と常に思っている。無駄な時間は過ごせない。やりたいことに打ち込み続けてもきっと死ぬまでに10%もできないだろう。
人生は短いからやれるだけのことをやらないと、という考えと、人生は長いからまだまだなんでもできる、という考えは、そこから生まれるアウトプットは同じ方向を見るけれど、スタンスがちょっと違う。りょうくんはもしかしたら、すごく前向きなのかもしれない。見習いたいと思った。

