37冊目/家カレー・ベスト

「喝采! 家カレー」をはじめとする4冊のシリーズが、
おそらく、過去のカレー本にないレベルでヒットした。
それら4冊分のレシピのいいとこどりをしたベスト版。
何年か前に出版社からオファーがあって以来、ずっとお断りし続けてきた。
ベスト版はやりたくなかったから。
気に入りのミュージシャンがベストアルバムを出すと、ちょっと落胆する。
なんとなく、これから先にあまり期待できなさそうな感じがしてしまうからだ。
ベストというのは、「これで終わり」、「これ以上は進歩できません」と
降参しているような印象がある。
ベストを出すなら引退する時だと僕は思う。
同じ理由で、「日本一」とか「世界一」とか「究極」とか、
そういう表現も避けてきた。
最近、雑誌やムックでやたらと多い表現だけど、
「日本一」こそ「終わり」、「自分自身の限界」を認めているようなものだ。
「日本一」を出してしまったら、その後に出すものは
すべて「日本二位」以下になる。
それでいいの? と思ってしまう。
ああ、でも、僕はベスト版を出してしまった。
後悔するときはまもなく来るのだろう。
ただ、著者としては、ベスト版は避けて通りたい本だけれど、
読者からすれば、ベスト版は嬉しい一冊になるだろう。
ここ数年、自宅でカレーを作る人の数が減っているらしい。
食品メーカーはカレールウが売れず、レトルトカレーが売れる世の中に
かなり危機感を持っているようだ。
みんなが自宅でカレーを作らなくなってしまったら、
カレーで何か新しいをしようとしても、幅が狭まってしまって僕自身も楽しめない。
この「家カレー」シリーズのようにカレールウを使って作るレシピは下火で、
一方、スパイスを使って作る「スパイスカレー」の世界は少しだけ盛り上がっている。
この状況はなんとかしたい、という気持ちが少しはあったかな。
出版社からの再三のオファーに対しても、そろそろいいにしようか、
と気持ちが動いた部分もあったかな。
ともかく、僕はベスト版を出してしまった。
でも、これはベスト版であってベスト版ではないと信じたい。
いい機会だから、僕がイートミー出版の企画として、だいぶ昔から、
ずっとやりたいと思っていたシリーズをサイトに公開することにした。
まさにミュージシャンが出すアルバムと同じような切り口で、
レシピ本が次々と出せるんじゃないか、という企画だ。
ベスト、アンソロジー、トリビュート、ライブ、などなど。
いつか、やりたいと思っている。

カテゴリー: 僕はこんなカレー本を出してきた |

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