カレーになりたい 180514

先週のことだけど、羽生さんが、名人戦の第3局に勝った。それで僕はその夜、ずっと機嫌がよかった。お会いしたこともない赤の他人の勝利がこんなに自分を幸せにするなんて、すごいことだ、とこの1週間ほど、噛みしめている。
羽生竜王とは何者なのか? という記事を読んだ。永世7冠達成・国民栄誉賞受賞祝賀会の席で記者が参加したプロ棋士たちに取材した内容がずらりと書かれている。
「最も良い棋譜を残せる相手」
「時代の巡り合わせに感謝」
「常に羽生さんが前にいるから、私たちは努力していける」
「目標として少しずつでも近づいていけるようにしたい」
「並の天才はいっぱいいるけど、100年に1人の天才です」
「羽生先生と指すことと他の棋士と指すことは違います。将棋の奥深さを体感する行為」
「他の方に失礼かもしれませんが、初防衛戦は羽生先生に挑戦していただきたい思いはあります。羽生先生と一緒にいられるのは最高の時間なんです」
錚々たる現役のライバル棋士たちが、口をそろえて羽生ファンを自称しているような状態で、僕は読みながら涙が出そうになった。
本当にいったい何者なんだろう、この人は。
極めつけは行方八段の言葉だった。
「イチローは半分引退してしまったけど、羽生さんが戦い続ける以上、僕は頑張りたい。これだけ多くの人を叩きのめしているのに誰からも嫌われない人ってすごいですよね(笑)。22年前の7冠達成パーティーも出席しましたけど、今日も来ちゃったな…。僕らにとって特別な人です」
印象的なのは、
「あなたにとって羽生さんとはどんな人ですか?」
と質問されているのに
「わたしにとって……」ではなく、「私たちにとって、僕らにとって」と答えている棋士が多いことだ。これもすごいことだと思う。すべての棋士に信頼されている、すべての棋士がきっと同じ気持ちでいるはずだ、という前提がなければこういう答え方にはならない。特別な存在としか言いようがない。
新刊「わたしだけのおいしいカレーを作るために」の中では、羽生さんが文春文庫で出されている本からの引用をさせていただいている。カレーの全容を解明したい、という内容のくだりで。
僕も羽生さんのエッセンスをほんのひとかけら勝手にいただいて、自分の活動を頑張れている人間の一人なんだと思う。いる世界はちがうけれど、気持ちだけでも「私たち」の仲間にこっそり入れてもらうことにしよう。

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