カレーになりたい 180308

僕は歯医者に行った。
4週間ぶりだ。
レントゲンを撮って、各種検査をして、問診があって……。
僕には虫歯はない。
昔も今も。
駅の目の前にあるあの歯医者の3階からは、
線路を渡る歩道橋を行き交う人たちが見える。
その光景を見ていたら、何かが蘇ってきそうになった。
インドへ行く前も、僕は歯医者に行った。
いつぶりだったかは覚えていない。
レントゲンを撮って、歯型をとって、クリーニングをして……。
僕には虫歯はない。
あった記憶がない。
駅から徒歩0分の場所にある歯医者の3階で、
空中散歩をするサラリーマンやOLさんたちを眺める。
その光景を見ているときに、ふと頭に浮かんだものがある。
インド前の歯医者でもインド後の歯医者でも
僕はたまたま同じ場所に座った。
そして、同じことが頭を過ったのだ。
カレーについての、なにかすごく大事な気づきだった。
その確信はある。
でも、その気づきが何だったのか、思い出せない。
担当の歯科医師さんが、唾液の検査結果を
細かく説明してくれている。
でも、僕の頭の中は、気づきがなんだったのか、
そのことがグルグルし続けている。
これなら、何も聞こえていないのと同じだ。
「そうか!」と思ったんだ、あのときは。
「そうか!」とはならなかったんだ、今回は。
何をひらめいたんだろう。
僕は歯医者を出た。
その日が終わっても夜が明けて朝が来ても、
歯医者での気づきは戻ってこない。
僕は歯医者に行く。
次の予約は、2週間後だ。
そのとき、またいつもと同じ椅子に座る可能性は
どれくらいあるのだろうか。
目の前の歩道橋を過去と同じ人が歩く可能性は
どのくらいあるのだろうか。
そのとき、僕は思い出すのだろうか。
大事なカレーの何かを。
歯医者に、歯医者に、歯医者に。
僕はそれを思い出すまで
歯医者に通い続けるしかないんだな。
 

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