カレーになりたい 190101

12月31日から1月1日へ、日付が変わる15分前くらいのタイミングで、メモ帳を開いて新刊の構成を検討していた僕は、突然、脈略もなく、「もうやめよう」と思った。
この日記を書くのはもうやめにしよう。
1年半ほどの間、毎日欠かさず書いてきた。海外にいてもイベントでクタクタでも、何があってもこの「カレーになりたい」だけは書いた。書き始めたキッカケは、「自分のことを正確に理解してもらいたい」と思ったからだ。ちょうど1年半前、僕は旧知の仲である人が、「水野さんは変わった、残念だ」と言っているという話を別の友人から聞いた。「まさか、そんなはずはない」と思った。信じられなかった。僕のことを知らない人に誤解されるならまだしも、旧知の仲の人にまでそんな風に思われているという現実を受け入れられなかった。
僕は何も変わっていない。
それを知ってほしかった。誤解されるのはつらいことだと思った。いろんなタイミングでいろんな判断をしていろんな活動やアウトプットをしている。ある一面をどこかしらの角度から見つめれば、意図しない解釈はいくらでも可能だ。だから誤解は簡単に生まれる。ほとんどのことは、ほとんどの人が想像するほど簡単な話ではないのだけれど。
ブレないように、変わらないように。そう心がけてカレー活動をしているはずの自分が「変わった」と言われることのショックは今も忘れない。
だから、この場では、他では明かさない本音を書いてきた。どこで何をしていても、この日記を読んでくれている人だけは自分のことを正しく理解してくれるだろうから。実際には「そうしてみたら?」というアドバイスのおかげで、僕は自分が平常心を保つための日記という場所を作ることができた。1年半に渡ってリハビリをしてきたようなものだと思う。
もう、日記を書くのをやめようと思ったのがなぜなのかは自分でもわからない。とにかく、本当に自然にすっと頭の中にそういう感情が現れた。躊躇する気持ちが全くわかなかった。そうだそうだ、やめればいい。そう素直に思った。
いま振り返って理由をつけようとするなら、きっと、リハビリが済んだということじゃないかと思う。もっと言えば、「自分のことを正しく理解してもらおう」だなんて、ダサい考えを捨てようと思ったし、誤解があっても仕方がない。それよりも、日記を書く余裕があるのなら、そのときどきに直面しているアウトプットの精度を上げることに力を使おうと思った。
思えば、1年半、ずいぶん、長々とウジウジと後ろ向きで情けないことを書き連ねてきたなぁ、と思う。まあ、これが自分の本性だから仕方がないか。
この「カレー計画」のサイトはこのまま続けるけれど、日記を書かないとなると、しばらく更新が止まるかもしれない。何か、具体的に前向きな話で書きたいことが出たら、書こうと思う。
最後に、昨年の後半に地元の静岡新聞で担当させていただいた連載の最終回をここに記して締めたいと思う。たまたまだけれど、コラムのタイトルがこの日記と同じだったので、ちょうどいいかもな、と思ったのだ。
自分の原点を忘れず、ブレず、変わらず、常に新しい挑戦をやめないでアウトプットを続けていきたいと思う。

***
カレーになりたい
 
将来なりたいものは? 小学校の卒業文集で定番の質問だ。この間、友人とふとそんな話になった。僕は、ハッキリと覚えている。名探偵。ただの探偵ではない。“名”探偵である。江戸川乱歩やアガサ・クリスティが好きだったから。いつか法律で、「すべての日本人は、50歳を過ぎたら卒業文集で宣言した自分を目指さなくてはならない」と決まったら世の中が面白くなりそうだ、なんて妄想した。
名探偵になりたかったはずの僕はといえば、20代後半で「東京カリ~番長」というカレーに特化した出張料理集団を立ち上げた。夢中になると他が見えなくなるのは子供のころからの性格。案の定、カレー活動の虜になった。あるとき、カレーマガジンを作ろうという打合せで、やりたいことをまくしたてる僕に呆れた仲間が言った。「さっきからカレー、カレーって、いったいお前は何になりたいんだ?」。興奮冷めやらない僕は、間髪を入れず答えた。「僕はねぇ! カレーになりたいんですよ!」。その場に沈黙が流れた。
冷静に考えてみれば、自分がカレーになったらカレーは楽しめない。でも最近、仲間を見つけた。行きつけのトンカツ屋の若旦那が小学校の卒業文集に「トンカツになりたい」と書いたらしいのだ。おお、ここにも! 嬉しくて涙が出そうになった。子供のころに思い描いたような大人にはなかなかなれないが、「名探偵としてカレーの全容解明に努めているのだ」と自分を納得させるようにしている。
***
    
さ、仕事に戻ろ。
  

カレーになりたい 190101 への1件のフィードバック

  1. ワルンカフェ のコメント:

    なんだか残念ですが、正しいと思いました。
    またまた色々な事に突き進んで下さいませ!

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