カレーになりたい 180208

ファイナルカレーは、ファイナルカレーなんだろうか?
 
「いちばんおいしい家カレーをつくる」という自著は去年出版して、部数でいえば最も反響の大きかったものだ。目玉は、ファイナルカレーなるもの。
このファイナルカレーと名付けたカレーのレシピを公開することによって、僕は、ずいぶんと周囲から誤解を受けた。
「ファイナルだなんて、そうか、水野さんは、引退するつもりなんだな」
とか
「ファイナルだなんて、言ってしまったら、これから窮屈になるだろうな」
とか。
ファイナルカレーとは、僕にとってのファイナルカレーではなく、読者にとってのファイナルカレーである。こんなカレーが作れるようになったら、もうこれ以上、レシピを探す必要はないでしょう? というようなカレーに仕上げたつもりだ。
このことは、本をじっくり読んでもらえれば伝わるはずのことだ。
今年の新刊のオールスタッフミーティングをした。たまたまファイナルカレーに話が及んだとき、僕は念を押すように言った。
「ファイナルカレーのファイナルは、僕のファイナルじゃなくて、読者のファイナルなんです」
そう言った瞬間、僕は手にしていたカフェラテをひっくり返してしまった。ジーンズのすそから靴下の先まで薄いベージュ色の液体がどっさり。慌てたスタッフのみなさんが、タオルやらぞうきんやらティッシュやらで懸命にふいてくれた。すぐ後に誰かが突っ込んだ。
「きっと、ファイナルカレーの読者の怨念ですよ」
そんなはずがない。だってのあの本は読者のためを思ってファイナルにふさわしいレシピを出したのだから。
その後、打合せは和やかに進んだが、僕は、ずっと左足の先が冷たいままだった。そして、そんな今年の新刊で、僕は、「水野仁輔だけのおいしいカレー」のレシピを全部公開することになる。じゃあ、それが水野仁輔にとってのファイナルカレーなのか? と聞かれれば、「違う」と答えるのだろう。現時点でベストなカレーが来年、再来年もベストになるとは限らない。それならば、いつだって「これでファイナル」ということはないわけだ。
だから僕はやっぱり考える。
ファイナルカレーは、ファイナルカレーなんだろうか? と。


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