カレーになりたい 171204

憧れのカレー店の味を再現したい、という気持ちは、カレー好きなら誰でも一度は抱くものかもしれない。
作曲家をしている友人が「カレーの研究会をしたい」という。神宮前にある「ブレイクス」のビーフカレーが好きで、何度も再現を試みているのだけれど、なかなか近い味が出せない、と。
「仁輔さん、作り方、知りませんか?」
「知らないよ」
確かに僕にもその昔(20年近く前かな)、大好きな店のカレーを再現したいと思っていた時期があった。でも、その後、長い間、そんな気持ちは沸かないままだ。好きな店のカレーは、その店で食べるのがいい。もしその店が閉店してしまって二度と出会えない味になってしまったら、そのことを心の奥にしまっておくのがいい。引っ張り出してきてもう一度体験しようとは思わない。
さまざまな店のカレーの作り方については興味があるけれど、それはその店のテクニックや哲学に興味があるわけで自分でそれを再現できるようになりたいわけじゃない。だから、ブレイクス(僕も超好きな店だ)の赤出川さんには何度も取材をしているけれど、カレーの作り方を聞いたことは一度もないのだ。
ともかく、知らないものは知らないのだけれど、研究会ということ自体は楽しそうだから、やることにした。ブレイクスのビーフカレーのようなものは作れるので、ひとまず、それを作りながらどうのこうのやろうか、と。ところが、その作曲家氏のやる気が尋常ではない。翌日からメッセージがバンバン飛び、「当日は何時集合にしますか?」とか、「ブレイクスのインスパイア系、弟子系の店のビーフカレーをテイクアウトします」とか。
「あれ? そんなに本気なの!?」と冷めた返事をすると、「カレーを上手に作れるようになりたいんです!」と純粋な小学生のようなコメント。
僕ももっと積極的に楽しもうと決めた。当日、編集者とのランチミーティングをブレイクスに指定し、ビーフカレーを食べに行く。赤出川さんに「作曲家してる友人がですね……」と経緯を話すと赤出川さんはつれない返事。
「作れないよ」
「そりゃわかってますよ」
「だって、俺が直接教えてやって3年経っても同じが作れてない店があるじゃん」
斜め上の方を指さしながら彼がそういう。僕もどの店なのかは見当がついたが、そもそもそういうことじゃないと伝えた。
「赤出川さんのビーフカレーのエッセンスを何かしら掴みたいってことだと思いますよ。とにかくすごく熱心なんで」
わかったよ、と諦めたような顔をして、こう提案してくれた。
「じゃあさ、その彼がどうやって作ったのかを紙に書いて持ってきなよ。アドバイスしてやるからさ」
「おお!」
赤出川の添削カレー教室!? これは面白そう。俄然やる気がわいてきた。今夜、彼と研究会をやることになったんです、と伝えると、じゃあついでに、といった調子で、店のビーフカレーをタッパーに入れて持たせてくれた。テイクアウトをしていないブレイクスのビーフカレーをほくほくしながら僕は持ち帰ることになった。夜、彼がインスパイア系3店のビーフカレーをテイクアウトしてきた。師匠のカレーと弟子のカレー、合計4種類のビーフカレーが並ぶ。
そこから先は予想以上の楽しさだった。試食をして試作をする。酒を飲みながら深夜1時を過ぎるまでわーわー言って盛り上がった。僕たちはできあがったカレーを赤出川さんのタッパーに入れ、スケジュール調整をした。紙に書いたレシピと共にこのカレーをブレイクスに持っていくんだ。赤出川さんは何て言うだろう。
作曲家氏を主人公にした通信通学の赤出川講座がいよいよ始まるのだ。最低1年間は続けたいと思う。なんか、すごく楽しいことに展開しそうな気がする。ぼくもブレイクスに顔を出す用事が増えて幸せだ。


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