カレーになりたい 171004

広島から僕のカレーを食べに来てくれた人がいた。
彼は、AIR SPICEをずっと定期購読してくれている人で、顔も名前も知っていたから直接会ってお話できたのは嬉しかった。
「東京に来る機会は滅多にないから、色々とカレー店を食べ歩いてます」
「どこに行ったんですか?」
「共栄堂、デリー、ナイルレストラン。今夜、新宿中村屋です」
「おおお、老舗を上から(笑)」
「そうなんですよ。水野さんのM響アワー、噂のカレー店を食べに行こうをベースに」
「ああ、動画で番組やったやつですね」
「それです」
「どこが好きでしたか?」
「共栄堂です!」
「なるほど。僕も今なら共栄堂が一番好きかなぁ。あとは、渋谷ムルギーに行ったら完結しますね」
「そうか! 行けるかなぁ」
僕は嬉しかった。AIR SPICEで作るカレーは、まあ、言ってみれば、いまどきのスパイスカレーである。そのヘビーユーザーとして毎月スパイスカレーを作ってくれている人が、東京で回る店が日本を代表するジャパニーズカレーの名店ばかりなのだ。彼の感性にそれらの老舗とAIR SPICEの共通点を見つけて響くところがあったのだとするととてもうれしい。なかったとしても、今時なカレーを作りつつ、老舗を食べ歩くスタンスの人がいるということに、なんだか心が温まった。
「これからムルギーに行ってきます」
そう言って去っていた彼を見送り、僕はフードトラックに戻って自分が作ったカレー、オレンジフェンネルとレモンセロリシードを食べた。まかない用に少しずつ盛り付けたあいがけ版だ。トラックの裏側で食べながら、ふと、前々から疑問に思っていたことが改めて頭をよぎる。
これってカレーなんだろうか。
どちらのカレーも普段と変わらない味わいだ。でも、今日は特にカレーの味がしない。カレーじゃない料理を食べている感覚がある。僕が作っているカレーは、カレーではないのかもしれない、と思った。カレーっていったいなんなんだろう。
共栄堂のカレーは、カレーの味がしないという人がたまにいる。もし、僕のカレーが同じ方向にあるのだとすれば……。もしかしたら、このカレーは共栄堂になれるのかもしれない。いやぁ、さすがにないか。このカレーを80年間作り続けない限り。
何にしろ、カレーを作っているのにカレーの味がしない、という事態は、前向きにとらえたほうがよさそうだ。頭の中にモヤモヤしたものを抱えながら、ランチの営業を終える。
夜、「カレーの学校」第7期、初日の授業を迎えた。テーマは、「カレーとは何か?」である。昼に自分のカレーを食べてカレーとは何かがわからなくなった男が、授業する。48名の生徒にスプーン1杯ずつオレンジフェンネルを試食してもらった。カレーだと思うか思わないか、で挙手をしてもらったら、90%以上がカレーだと答えてくれた。そうか、この味は世間的にはれっきとしたカレーなのか。だとしたら、僕の感覚がズレてきているのかもしれない。
カレーになりたいと思っているのにカレーがわからないんじゃ、カレーになることはできない、よな。


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