カレーになりたい 170717

昔から最上級表現が好きになれない。
「究極の」とか「最高の」とかいうのが典型的な表現だ。ずっとそれを避けてきた。最近は、「世界一やさしい」とか「いちばんおいしい」とかを書籍のタイトルで使うようになったから、ときどき自分で自分のことを信用できなくなる(笑)。それでも、これはいいけど、これはいやだ、という“なんとなく”の線が自分の中にはある。
NHKの番組「あさイチ」の収録を行った。スパイスカレーを披露する。たった3種のスパイスで本格的なチキンカレーができる、というもので、これは、数年前からあの手この手で書籍で紹介してきたものだ。今回もそのレシピがベースになっている。収録前日に台本が送られてきた。台本といっても、おそらく10分にも満たない短いVTRだから、頭にいれなければならないセリフはほとんどない。ただ、スパイスカレーを作ればいいのだ。
気楽な感じで台本を斜め読みすると、ひっかかる言葉があった。「神3スパイス」と書いてある。何て読めばいいのかわからない。「かみさんすぱいす?」「かみすりーすぱいす?」。それだけならまだよかったが、前後を見てみると、僕がスパイスを紹介するシーンでこの言葉が登場する。「ターメリック、レッドチリ、コリアンダー、この3種だけでおいしいカレーができるんです」と、ここまではいい。「僕はこれを神3スパイスと呼んでいます」とある。
???
僕は読み方もわからないのだ。僕はそう名付けた覚えも、呼んだ覚えもない(笑)。だいいち、「神」という表現が気に食わない。神とか天才とかを多用するのは最近の流行なのかもしれない。でも僕からすれば、みっともない表現だから、使いたくはない。これをテレビカメラに向かって僕は言わなきゃいけないのだろうか……。気軽に捉えていた収録が、急に重々しいものに思えてきた。やだな、やめたいな。でたくないな。登校拒否児童のような状態になって前夜を過ごす。
当日、収録の途中で、「神3スパイス」のくだりがやってきた。「かみすりーすぱいす」と読むらしい。
「これ、言わなくてもいいですよね?」
「あ、まあ」
「神3スパイスとか、言ったことないんですよね。こういう言い方が流行ってるんですか?」
「まあ、若者の間で」
「あさイチって、何歳くらいの人が見てる番組なんですか?」
「40代~50代……」
「僕がこのスパイスを紹介する時に、“3種の神器”っていう言い方はしてるんで、そっちでもいいですか?」
「はい、大丈夫です」
ということで、なんとか、3種の神器でよしとしてもらった。「神」という文字が入ってるから許してもらえたんだろうか。
番組の内容には何の不満もない。スタッフはとてもよく僕の本を読んでくれていて、何度も試作をしてくれて、結果や感想を打ち合わせの時も聞かせてもらっていた。真面目にスパイスカレーに取り組んでくれている。だから、誰が悪いわけでもない。もっといえば、たいしたことではないのかもしれない。僕のようなあんなセリフひと言でつっかかってくるような人は、テレビの世界では、「面倒くさいやつだな」と認識されたりするんだろうか。
そもそも、あの台本自体が、そんなに深い意味があって「神3スパイス」を使っていたのではないのかもしれない。過剰反応をしているのは僕だけなのかもしれない。
いずれにしても、収録が終わって帰りがてら、僕は思った。やっぱりしばらくテレビに出るのはやめにしよう、と。なんとなく、肌に合わないメディアなんだと思う。なんとなく美しくないとか、なんとなく好きじゃないとか、なんとなく気持ち悪いとか、なんとなくおかしいと思うとか、なんとなく格好悪いとか、そういう「なんとなく」という感覚はこれからも大事にしていきたい。たとえ器の小さい人間だと思われても、なんとなく僕にとっては大事なことだと思うからだ。


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