カレーになりたい 170708

今週一週間、自宅の扉の前に段ボール箱がいくつか置かれたままだった。箱の中身が今年の新刊、「いちばんやさしいスパイスの教科書」と「世界のスパイス&ハーブ大事典」であることがわかっていたのにずっと手を触れないままでいたのは、ひと言でいえば、余裕がなかったからだ。物理的にも気持ち的にも。苦労して作った新刊が、発売の1週間以上前に僕の手元に届いているというのに……。
昔はそんなことはなかった。書籍の制作が何よりも好きな僕は、全身全霊をかけて1冊の本に打ち込む(これは今も同じだ)。本ができあがってサンプルが届くと、真っ先に包みを開け、そこから数日間は、自分の労をねぎらうかのように何度も本を手に取ってしげしげと眺め、「いい本だよなぁ」と確認する作業を怠らなかった。短いけれど、最も自己愛が強まる瞬間。このために頑張っていると言っても言い過ぎではないくらいだ。
それなのに、自宅のドアの前に放置をしたまま、3日も4日も触れないままでいるなんてことは、ありえない。自分で作った本に申し訳ないと思ったけれど、余裕がない日々を送っている身からすれば、しかたのないことだった。昨日、イベントで沖縄に入った。荷物をまとめるとき、急いで段ボールを開け、「いちばんやさしいスパイスの教科書」を数冊、カバンにしまいこんだ。沖縄で会う人たちに差し上げる分とは別に1冊だけ、手提げにつっこむ。
早朝6時30分、飛行機が羽田空港を飛び立った後、3時間ほどしか寝ていない僕は、機内で睡魔が襲ってくる前に急いで本を開いた。まえがきからあとがきまで200ページほどあるイラスト付きの本を15分ほどで斜め読みする。素晴らしい本だ、こんな本は今まで世の中になかった。きっとたくさんの人が「待ってました!」と手を叩いてくれるに違いない。大げさに自分で自分を褒めたたえながら、本に目を通す。いつもなら数日間かけてやっている作業を15分に凝縮させた。
この喜びを味わえるのは、これが最後だから。次に僕がこの本を手に取るときには、反省点ばかりが目についてしまって、「もっとこう書けばよかった」、「構成はこっちにするべきだった」、「自分の実力もまだまだだな」とへこんでしまうに違いない。これもいつものことだから。あれだけ苦しい思いをして作った本なんだから、もっと噛みしめればいいと思うのだけれど。その後、あっという間に眠りについた。目が覚めると那覇空港だった。
ホテルにチェックインした僕が、いま、頭の中で考えていることがある。来年はもっといい本を書きたい。まだまだ実力が足りない。あと、もうすこし、ゆっくり休む時間がほしい。


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