欧風カレー番長、始まります。

新しいグループを結成して、活動を始めることにした。
名前は、「欧風カレー番長」。
メンバーは次の機会に改めて紹介しようと思う。
  
欧風カレーという言葉は、メジャーだけど定義が曖昧だ。欧風(=ヨーロッパ風)なのにヨーロッパには存在しない。日本で生まれたカレーだ。欧風カレーがどんなカレーなのかは意見が分かれるが、ざっくり言えば、小麦粉でとろみをつけたカレーの総称。すなわち、市販のカレールウで作る日本の家カレーは、すべて欧風カレーだということになる。洋食屋さんのカレーもホテルのカレーも欧風カレーと呼ばれることが多い。
インドのカレーもタイのカレーも基本的に小麦粉は使わない。カレーに小麦粉を入れたのは、イギリス人だと言われている。そのカレーが日本に伝わって独自のカレーへと進化した。去年、ロンドンに滞在して日本のカレーのルーツを調べたが、イギリスで生まれたいわゆるブリティッシュカレーは、日本の欧風カレーとはまるで違う味わいのものだ。
  
欧風カレーとは何か? このことに僕なりの答えを用意するなら、「欧風カレーとは、ジャパニーズオリジナルカレーである」となる。日本が独自に進化させたカレーの総称が欧風カレーである。欧風カレーを追求することは、日本のカレーとは何か、日本人にとってカレーとは何かを突き止めることと同じだ。おおげさじゃなく、そう思う。
日本のカレーのルーツを探るためにイギリスに滞在した結果、僕が強く感じたのは、日本のカレー文化のすばらしさだった。インドカレーはインドにある。タイカレーはタイにある。そしてどちらも世界中に存在する。インド人やタイ人の移民が存在する限り。ところが、日本のカレー(=欧風カレー)は世界中のどこにも存在しない。日本にだけあるカレーだ。
  
ここ数年、僕はカレーのルーツであるインド料理に傾倒してきたけれど、そろそろ軸足を日本のカレーに戻そうと思う。
  
欧風カレー番長が目指す理想のカレーについて、ぼんやりとだけれど触れておきたい。
現在、日本の欧風カレーは、足し算の料理だ。材料を足し、隠し味を遣い、おびただしい種類のスパイスを調合する。足しているのは、材料だけではない。玉ねぎを弱火でじっくり炒め、長時間煮込み、何日も寝かせるという風に、時間も手間も足している。
イギリスから伝わったシンプルなブリティッシュカレーをもっとおいしい味わいにできないものかと100年に渡って多くの人たちが手を尽くしたわけだから、足し算の料理になるのは必然だと思う。でも、いま僕が疑問に思うのは、「その足し算は本当に必要な足し算なのだろうか?」ということだ。
  
欧風カレー番長は、時代に逆行(?)して、引き算のカレーを目指したいと思う。材料も時間も足さない。不必要な手間も足さない。むしろそれらを引ける知識をつけ、テクニックを磨いて、本当に必要な手間だけをかけてスッキリと洗練された欧風カレーを開発したい。そんなカレーができたら、いつかロンドンやパリにカレー店を出店したら面白いんじゃないか、なんてことも考えている。カレーの逆輸入。そのために強力なメンバーに声をかけた。
  
カレーで商売をして、お金を儲けたい人は世の中にたくさんいる。いいことだと思う。そんな人たちにとっては、メーカーであれ、店であれ、個人であれ、団体であれ、これからの数年間は大きなチャンスかもしれない。2020年東京オリンピックで日本の食文化に世界から注目が集まる。「ジャパニーズカレー、ここにあり!」と声高に主張すれば、お金はもうかるだろうし、もうきっとそんな狙いを秘めた活動はどこかで始まっているのだろう。
でも、東京カリ~番長も東京スパイス番長もそうだったように、そして僕自身もこれから始まる欧風カレー番長も、カレーでやりたいことはビジネスとは違う。お金にとらわれず、カレーで未知の世界に挑戦を続けたい。メジャーになるつもりもない。日本の片隅で細々とでいい。
  
欧風カレー番長だなんて、名前はふざけているけれど、取り組みは割と真剣にやっていきたいと思っている。欧風カレーの世界は、レシピの研究開発を専門的に行っているプレーヤーがいないというのもやりがいを感じる要素のひとつ。インド料理のスパイステクニックやベーシックな知見も存分に取り入れていきたいと思う。
さて、どんなカレーが生まれるのかな。自分たちのやることだけれど、僕自身、とっても楽しみにしている。
  
2015年1月21日
水野仁輔
  

カテゴリー: ★欧風カレー番長について |

欧風カレー番長、始まります。 への1件のフィードバック

  1. 匿名 のコメント:

    南インドに興味を持ち始めたのがきっかけで、インド料理を作るようになったのが今から三年前。
    水野さんの本のおかげでそれなりのサンバルやラッサムを自宅でもすすれるようになりました。
    実はその数年前からインド料理は作ってみていたのですが、他の本では駄目で(インド人の自作YouTubeも駄目)、水野さん、また番長の方々の著書だけが、私にとって最も信頼のおける先生となりました。

    しかし何度作っても何かに至らぬこの感じに悶々とした時期もあったのですが、これ、もしかしたら自分はインド人の料理歴史の遺伝子を受け継いでいないからじゃないか?、という結論に至りました。その件については悲しみは無く(大袈裟か?)、ある意味、肩の重荷が幻だった事に気づいて、ラクになりました。

    一方、私は日本のカレーがそもそもは嫌いでした。だからこそインドの料理がおいしいと感じたのかもしれません。都内の数件のインド料理店が私の目指す味となり、水野さんの著書がそれを助けてくれたのでした。

    …が、インドに近寄れてもインドになれぬ自分に気づいてしまってから、ふと、日本人はカレーなるものをどれくらい磨いて来たのだろうか、という事に疑問を持ち始めました。

    その調査のために入ったカレー店で、あっけなく、まさかのカレー好きになってしまいました。

    そのカレーが、ジャンルで言えば欧風カレーとなる事を知り、自分なりにいろいろと調べました。
    軽視していたはずの日本の洋食が明らかに和食…日本人が磨いて来た独自の料理である事を、最近やっと受け入れつつあります。

    たしかに日本で言うカレーは欧風カレーと呼べる日本独自のものなのでしょうが、あまりにもパラメータがありすぎるジャンル。
    ただし今回、その中にも自分の好きなカレーを見つけてしまった以上、自分だけのカレーを作らねばという思いでいたところ、また水野さんに遭遇(あくまでもWeb上で)。

    ウケました。
    研究報告を楽しみにしております。

    あくまでも個人的な料理研究家より

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