39冊目/カレーの奥義

カレーの“奥義”である。
カレーを極めたシェフ10人の技術と知見がここに! ということで、
おいしいカレーを作るための奥義がここにはある。
カレー店のシェフとの対談集。
カレーのテクニックについて、僕が今、最も議論を交わしたいシェフを10人選ばせて頂き、
彼らの作るカレーの持ち味を考慮してテーマを設定し、どこまでも深く、とことん話し込んだ。
    
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奥義01 「デリー」 田中源吾 ―――たまねぎの焙煎がカレーに及ぼす効果とは?
奥義02 「ルー・ド・メール」 鈴木正幸 ―――ビーフカレーにおける牛肉のおいしさとは?
奥義03 「サールナート」 小松崎祐一 ―――インド人が大切にしているエッセンスとは?
奥義04 「レストラン吾妻」 竹山正昭 ―――カレー粉を焼いて生まれる切れ味とは?
奥義05 「共栄堂」 宮川泰久 ―――変わらぬおいしさを維持する挑戦とは?
奥義06 「ピキヌー」 山口 茂 ―――カレーに彩りを与える素材の風味とは?
奥義07 「ラ・ファソン古賀」 古賀義英 ―――カレーのおいしさを支配するブイヨンとは?
奥義08 「KALUTARA(カルータラ)」 横田彰宏 ―――シンプルな調理に宿るテクニックとは?
奥義09 「ナイルレストラン」 ナイル善己 ―――スパイスから生まれる香りを操る方法とは?
奥義10 「新宿中村屋」 二宮 健 ―――おいしいカレーを生み出すメカニズムとは?
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十人十色と言うが、おいしいカレーをつくるために注力するポイントは、多岐に渡る。
そして、正解は一つではない。
作りたいカレーによって、引き立てたい香りや味によって違う部分もあるかと思えば、
すべてのカレーに応用できる万能のテクニックもある。
     
シェフとの対談を通せば、
たとえば、「玉ねぎを中火で10分間、きつね色になるまで炒める」とか、
「肉を加えて煮立て、ふたをして弱火で30分煮込む」などという、
レシピの一般的な表記の裏側にある“本当に大事なこと”が伝えられるんだ、と実感している。
そういう意味では、「レシピの行間を読むためのテクニック本」という存在なのかもしれない。
   
僕はかつてから、イートミー計画の取り組みで、Labo Indiaというものを行っている。
日本人のインド料理シェフが10人以上集まって、インド料理について語り合う研究会だ。
たとえば、玉ねぎについて、油について、スパイスについて、とテーマを絞り込んで、
2時間、3時間と話し続ける。
どこまで話しても尽きることはないが、一方でひとつの正解にたどり着くこともない。
答えがわからないまま錚々たるシェフが逡巡をし続けるこの会話を
僕は毎回、一冊の本に収録し続けてきた。
それを読んだ別のインド料理シェフから感激の感想メールをいただいたことがある。
「私は、この世界でキャリアを積んできたから、そろそろ日本のインド料理界に対して
何か貢献できることはないかとずっと頭を悩ませてきました。
水野さんが作った『Labo India』を読んで、これこそがインド料理を志す人にとって
最良の取り組みになると確信しました。
正解の見つからない、正解がひとつではないインド料理の世界で、
何かひとつの答えを導き出そうとするのではなく、シェフたちが思い悩んでいることを
そのまま赤裸々に文章として出すことが、インド料理の真髄に迫る一番の方法だと
私自身がそう確信したからです」
そういった内容のメールだった。
この“インド料理”というジャンルを“日本のカレー全般”に転換したものが、
今回の「カレーの奥義」だと思っている。
欧風カレーもインドカレーもタイカレーもスリランカカレーも洋食屋のカレーも
どこにも属さないオリジナルカレーも10人のシェフがそれぞれの立場で語ってくれている。
     
おいしいカレーを作るためのテクニックに正解があるのなら、
それを知りたいと思う人がほとんどだろう。
でも、正解を知りたがっている人が正解にたどり着く最善の方法は、
あえて正解を提示しないことなのかもしれない。
シェフへのインタビューを読めば読むほど、そういう気持ちが強まっていく。
この本には、それだけ「おいしいカレーを作るための秘密」が詰め込まれていると思う。
    
そして、おそらくこの本の面白いところは、100人が読んだら100通りの読み方がある点だ。
読者が何を求めるかによって、読者が程度の実力かによって対談から読み取れるものは千差万別。
時が経って読み返すと過去に気づかなかったことを発見したりすることもあるだろう。
噛めば噛むほど味わいが出るビーフジャーキーのような本。
(カレーの本なのにビーフジャーキーはわかりにくいか……)
噛むカレー。読むカレー。
僕自身も、この本は、これから先、何度も読み返すつもりだ。
   
シェフと水野だけがマニアックに盛り上がるのではなく、
超初心者からプロまで、さまざまなエッセンスを読み取れる本にするために、
対談の構成や原稿の書き方にはできるだけ配慮した。
それにしても尊敬するシェフの皆さんとの対談は、とにかく楽しかった!
今回は10人のシェフが対象でしたが、あと100人くらいと僕はこの対談をしてみたい。
そんなチャンスがあったら、ぜひまたそのときは、読者としておつきあいしてほしい。
    
2016年5月 水野仁輔
   

カテゴリー: 僕はこんなカレー本を出してきた |

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