日本で最も歴史のあるインド料理店のことを書いた。
カレーの食べ歩きを続けている僕には、ひとつのコンプレックスがあった。
それは、どの店に対しても常連客になれてないことだ。
さまざまな店を紹介する原稿を書いていて、いつも頭の片隅によぎる一抹の不安は、
「僕よりもこの店についてよく知っているお客さんがいるんだろうな」ということ。
彼らからすれば、水野が書く原稿を読んで、
「こいつ、わかってねえな」とか、
「まだまだだな」とか、
「本当のこの店の魅力はそこじゃないんだよ」とか、
そんなことを感じているに違いない。
なぜなら、常連客がその店を愛する情熱は尋常ではないものだろうから。
だから僕は食べ歩きをする人間として、新たな境地を切り開くべく、
ナイルレストランの常連客になることにした。
僕は、2年間、1週間に3回か4回、ナイルレストランに通った。
ざっと1年50週として、2年で100週間。
ということは、僕は2年間で、合計300食から400色のムルギランチを食べたことになる。
その結果、僕の中に芽生えた感情は、常連客に対する敬意だった。
結局、僕はナイルレストランの常連客にはなれていない。
僕よりも昔から気が遠くなるほど通い詰めているお客が死ぬほどいる。
すごいことだと思った。
そんなこんなを感じている最中に本書を書くチャンスに巡り合えた。
必至で取材し、恥ずかしくない原稿を書けたと思う。
もっとも嬉しかったのは、店主のG.M.ナイル氏が喜んでくれたこと。
そして、僕がいないところでお客さんに本書を推薦してくれていること。
ちょっぴり嬉しかったのは、
「本の雑誌」が選ぶ年間ノンフィクションベスト10に選ばれたこと。
そして、伝えておきたいのは、出版社から依頼があったキッカケは、
担当編集者が、イートミー出版で自主制作していた、
「インド料理をめぐる冒険」に感銘を受けてくれたことだった、ということ。
多くの人の善意の結果、自分にとって大切な一冊ができたと思っている。
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22冊目/銀座ナイルレストラン物語
カテゴリー: 僕はこんなカレー本を出してきた