11冊目/喝采! 家カレー

「いつものルウだけで、うまさ新境地」。
本の表紙に書かれているキャッチコピーだ。
僕が考えたわけではなく、担当編集者が考えたものだが、
本のコンセプトを端的に表現していて、秀逸だと思う。
この本は、本当に思い出深い。
最初に編集者から「カレー本を作りませんか?」とコンタクトがあったとき、
僕は彼が提示した企画を読んで、こう答えたのを覚えている。
「僕はありきたりなカレー本は作りたくない。
こういう内容の本なら著名料理研究家さんにでもお願いすればいいと思う。
僕は、僕にしか絶対に作れないカレーのレシピ本なら引き受けたい」
ずいぶん、生意気なことを言ったものだと今思えば恥ずかしくなる。
カレーというのはレシピ本を作るには厄介な食べ物だ。
なぜなら味や見た目のバリエーションが作りにくいから。
通常、レシピ本には、50品前後のレシピが載る。
ところが、たいていのカレーの見た目は茶色だし、
味も似たようなものになってしまう。
だから、カレー本を出す人はたいてい、トッピングを工夫して
華やかに見せたり、カレールウだけではなく、スパイスやカレー粉を
使ったレシピを盛り込むことで味のバリエーションを生もうとする。
カレールウを使ったレシピとなると問題はもっとも厄介だ。
どんな調理を施してもルウを入れた瞬間に“ルウで作りました”
という見た目と味になってしまう。
だから、5品、10品のカレールウレシピは作れても
30品、50品のカレールウレシピを作るのは至難の業。
だから、そんな無茶はたいていの場合、避ける。
僕はそんなカレー本の状況に対して、当時、少しだけ反発心があった。
まず、僕はトッピングが好きではない。
トッピングというのは、カレーの楽しみ方のひとつではあるけれど、
カレーのレシピとはいえない。
だって、カレーソースをひとつ作って、トッピングを50種類用意すれば、
一冊の本ができるのと同じではないか。
トッピングするのではなく、トッピングする具はカレーソースと一緒に
煮るなり炒めるなりして何かしらの融合を図るべきだというのが持論。
あれこれ自分なりに思うところあったときにちょうど運悪く(?)、
ありきたりなカレー本の企画が持ち込まれたのである。
「僕だったら例えば、スパイスやカレー粉に逃げないで、すべてのカレーを
カレールウだけ使って50品の味や見た目のバリエーションを作れますよ」
と啖呵を切った。
若かったなぁと反省する。
でも、結果的にはそれが功を奏した。
編集者は僕のその思いに応えてくれたのである。
結果、「いつものルウだけで……」が生まれた。
この本は、僕が過去に出したカレー本の中で最も売れているし、
その後、人気シリーズとなって、合計4冊のシリーズ本を出版することになった。
「喝采! 家カレー」が出版された翌年から、雑誌でも書籍でも
“ルウを使った家カレー”企画が氾濫した。
そういう意味では、ひとつの定番になったんじゃないかな、と思う。
   
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カテゴリー: 僕はこんなカレー本を出してきた |

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